海の岩場のフジツボ、実は美味 青森・七子八珍を食す
「これは本当に食べられるのか?」と思わせる見た目なのに、食べてみるとおいしい。私はこういう食べ物に目がない。
たとえば三陸のホヤ。ゴツゴツした見た目はパイナップルか怪獣の足を連想させるが、蒸しホヤにすると甲殻類のような味わい。
それからイカトンビ。イカの足の付根にある口の部分だが、見た目はまるで目玉のよう。しかし、これを串に刺して塩焼きにすれば、日本酒がクイクイ進む珍味になる。
さてはて、そんな「見た目とはうらはらにすこぶるおいしい」食べ物で、一度食べてみたいと願っていた食材があった。青森のフジツボだ。
青森では、地元ならではの珍しい食べ物を「七子八珍」と呼ぶが、フジツボも八珍のひとつだ。
フジツボといえば、海の岩場にくっついている、先がギザギザにとんがった貝殻のようなアレだ。といっても、食用のものは岩場のフジツボとは品種が違う。
食用にされる「ミネフジツボ」は水深10メートル付近に生息し、貝殻にくっついて育つことが多い。水温が低くホタテ養殖の盛んな陸奥湾は、ちょうどよい深さにホタテの貝殻があり、ミネフジツボが育ちやすい環境だった。
地元の居酒屋でも、5月から8月の間、入荷があった日にしか食べられないフジツボ。念願かなって青森を訪れた私は、郷土料理店に直行。「フジツボあります」の張り紙を見つけ、心躍らせながら注文した。
酒蒸しにしたフジツボは、食べやすいように殻を少し割ってある。
爪を持ち、オレンジがかった淡い色の身をとりだすと、カニともエビともつかないあっさりと上品な味。さらに、「一番おいしいのは皿にたまった、フジツボのダシがとけだしたスープです」と教えてもらい、言われたとおりにすすってみた。
濃厚な潮の香りがたまらない。ホタテの貝殻を使った郷土料理「貝焼き味噌」も一緒に味わった。
市内の寿司屋ではフジツボ軍艦やフジツボ丼をいう新しい食べ方も生まれているとか。珍味好きにはたまらないフジツボ料理、ぜひお試しあれ。
(日本の旅ライター 吉野りり花)
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