スパゲティにうどんそば…名古屋人は「あん」が好き?
日本の甘味処(3)
今回もたくさんのメールをいただいた。たくさん過ぎて困っているほどである。紹介しきれん。
まず最初は、甘納豆入り赤飯誕生の経緯。考案者の南部明子さん(故人)の娘さんで光塩学園理事長の南部ユンクィアンしず子さんにお話を伺った。
母は働く女性の草分けのような人でしたから、戦後の女性の社会進出が頭にあったのかもしれませんね。うちの学園では代々この方法を学生に教えています。母は生前、地元の新聞やラジオ、テレビなんかの取材をたくさん受けていますから、北海道ではよく知られていますよ。去年の12月にもテレビ朝日の方が取材に見えました。あれは全国放送だったんではないでしょうか。
ということだった。テレ朝の番組は見ていない。見ていれば逆に興味を抱かなかったかもしれない。そしたら「甘味処」調査は思いついていないかもしれない。何がどうころぶかわからないものである。
大阪に住んでいたとき、関西のみなさんのだし巻きに対する特別の思いを痛感しました。店のメニューにだし巻き定食が普通にあることにも驚きました。そして、関西にはだし巻きと卵焼きに対する心理的区別があることも承知しています。
実は三林京子さんの「ああ書けば、こう食う」でもそのことが触れられているのです。
でも技術的なことは別にしてここで言う「卵焼きは」は一応「卵をあんな風に焼いた料理」と理解してください。VOTEの項目でだし巻きと卵焼きを分けると甘味調査ではなく「だし巻き地帯・卵焼き地帯の分布」調査になってしまうのです。どうぞあんさん、今日のところは目ーつむっておくれやっしゃなのです。
鳴門と五島列島がともに赤飯ゴマ砂糖地帯だったとは、びっくりです。共通点は……海。海でつながってるからなあ、って言ったってそれがどうしたんだでしょう。いったいどうなってるんでしょうね。
山梨には両方ある? 小豆の赤飯と甘納豆赤飯が共存しているっていう意味ですか? それとも砂糖なしと砂糖ありの赤飯があるってことですか? いずれにせよ、どんな地図ができるのか想像もつきません。やっぱりこの調査はやってよかった。
苦労して育ったんですね。お汁粉より何倍も甘い味噌汁を飲んでいたんですか。でもそこまで甘いと味噌汁って言っていいんですかね。近所の人は決して珍しくないと断言したらしいですが、その断言にはハンターイ。これからは「三重の液状味噌餡」と呼びましょう。
独自の七草粥、本当に苦労さまでございます。本物の七草粥に入るべきものがいっこしか入ってないところがとっても凄いですねえ。しかも砂糖のおまけまで付いて。でもこれは地域性というより個人の強烈な趣味ですね。それと、HNがもうちょっと短いと助かります。
他地方にもいくらでも存在するんじゃないですか。全国のモスバーガーに行くと……あっ、あれはきんぴらライスバーガーでした。でも、おいしそうですね。
中華の蒸しパン感覚。軽井沢で食べた「お焼き」に野沢菜が入っていましたが、それともニュアンスが似ていますね。甘味ではないのですが、逆甘味の一品として紹介しました。逆甘味としては、沖縄チャンポンさんから福島県N町で発見した「しおあめ」情報が寄せられています。
甘いあめに塩が入ったもので「甘いのかしょっぱいのか、はっきりせい」という味だったそうです。でも「はっきりせい」と言われたあめは困ったでしょうね。
ぜんざいと区別がつかないということは、鳥取のお雑煮は甘いということでしょうか。もしそうなら、同じものじゃないですかねえ。正月になると、ぜんざいに青菜やなんかをちょっと足して雑煮。ふだんは餅だけ入れてぜんざい。普段の給食に出るものが正月の自宅の食卓に登場したら複雑な気分でしょうが。
お雑煮というのは本当にいろいろあります。農山漁村文化協会から出ている全国都道府県の食事聞き書きシリーズという大作があります。全国の年配の方に昔食べていたものや、年中行事のときに食べるものを丹念に聞いたものですが、正月料理は町、村、集落単位で変化するようです。
秋田県の主婦「雷」さんからは「こちらでは何でも鶏にだし。いわば、きりたんぽの味にしてしまうところがあります。うどんもそばも鶏。おすましも鶏。おでんもお雑煮も鶏です」というメールが来ました。雑煮が鶏だしというのも「およよ」ですが、鶏だしのうどん・そばには以前びっくりしたことがあります。
山形ラーメンの取材に行ったとき、どっかのおそば屋さんで食べたそばのつゆがチキンテイストで「麺を変えたらラーメンじゃん」と思いました。昆布だしたっぷりの大阪うどんと、鶏だしの秋田うどんが闘ったら金網デスマッチになるでしょうね。そこに、煮干しだしの讃岐うどんが乱入したりして。
この辺で名古屋問題に移ろう。毎回のように名古屋情報を送ってくださる愛知県知立市学生22歳さんのメールを短縮して紹介する。
(1)鉄板スパゲティ
昔から名古屋の喫茶店にあるメニュー。1人用のステーキ鉄板皿に薄焼き卵を敷き、ケチャップとデミグラスソースで味付けしたパスタが載ったもの。ジュージューの熱々。具はタマネギ、ベーコン、ピーマン。上に赤いウインナをトッピング。別名「名古屋風ナポリタン」。
(2)あんかけスパ
野菜ベースの独特のあんを太めのパスタにかけたもの。名古屋のヨコイが有名で、スーパーではヨコイのパスタの素が売られている。コンビニでは(1)(2)の両方とも手に入る。
(3)小倉とマーガリンのサンドパン
小倉&マーガリンをはさんだホットドッグみたいな長いパン。名古屋のパン売上第1位という説がある。
(4)小倉スパゲティ
名古屋市昭和区にある「マウンテン」という喫茶店の看板?メニュー。抹茶味の太めパスタにホイップクリームと小倉を載せたもの。大学がそばにあるので罰ゲームとかで食べる。これが好きな人の話は聞いたことがない。
(5)スガキヤ
この会社が東海地方を中心に展開する和風とんこつラーメンと小倉系デザートを組み合わせたファストフード店は、女性のオアシス。
(6)モーニングサービス
夕方までモーニングサービスという店もある。「コメダ」というチェーン店が有名。朝から車の行列ができる。量・メニューは体験の価値あり。
鉄板スパとあんかけスパは「偏食アカデミー」時代に取材しました。鉄板スパにのっている赤いウインナが「たこ」に切ってあったので笑ってしまいました。
見ていただくとわかるように、ソースをパスタの上からかけるのではく、周囲にかけ回すのが独特の美学です。「あん」とは言っても和風ではなくちゃんとしたソースです。ただ、とろみをだすためにかたくり粉を入れるので「あん」のような風味を持っています。
名古屋の人は「あん」が好きなのでしょうか。栄のど真ん中であんかけうどん・そばの専門店を発見しました。
それともう一つの名物は「幻の手羽先」でしょう。「世界の山ちゃん」という店に何度か入りました。手羽先をピリ辛に揚げたやつを注文すると「骨の上手な外し方」を書いた紙切れがあって(割りばしの袋だったかな)、書いてある通りにすると実にきれいに骨が外せたので、幸せな気分になりました。
スガキヤのラーメンは確かに安い。でも、何度食べてもスープがぬるい。ぬるくなくてはスガキヤのラーメンを食べた気がしないくらいです。若い女性や家族連れが多いので「火傷防止」のためにぬるくしているのでしょうか。
台湾ラーメンもあります。ひき肉、ニラ、ニンニクに赤唐辛子の真っ赤っか大辛麺。トッピングだけが独立して「台湾」になり、ご飯にかけたり酒の肴になったりしています。もちろん台湾ラーメンは台湾にありません。名古屋周辺にだけあります。
私が個人的に名古屋名物と思っているのは「ブラジャー丼」です。
昭和50年代に岐阜県のある陶房で開発されたものですが、名古屋の町を歩いているとほんとうによく見掛けます。JR名古屋駅の地下街にもこれを何種類も組み合わせて食べさせる店がありますので(つぶれてないと思います)、ついでがある人は観察してみてください。
ブラジャー丼というのは「偏食アカデミー」周辺の呼び方で、地元では「めおと丼」とか「双子丼」とか呼ばれています。名古屋で「ブラジャー丼ください」などと注文すると、はり倒される危険がありますので注意してください。
このほか、アカデミーで取材した名古屋系物件として「うなぎバーガー」があります。ハンバーガーの中身がうなぎの蒲焼きと思ってください。これもチョコレートパフェなど甘味系と合わせます。
あと「ねぎとろサンド」など和風のサンドイッチばかり売っている店があるというので取材を試みましたが、閉店した直後でワヤになってしまいました。食べたかったなあ、ねぎとろサンド。名古屋のねぎとろサンド(わさび醤油味)と東京ののりトースト(七味醤油味)が闘ったら金網デスマッチに……このパターンはさっき使いましたね。
のりトーストというのは多分東京名物。日経の夕刊に書いたことがありますので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。どうしても知りたいという方は私の名前で検索してください。どこかののり屋さんがHPに引用しています。
メールの中には「近く名古屋に転勤になります」というのもありました。広東と同じくらい面白いかもしれませんよ(ご本人以外には何のことかわからないでしょうが)。
「あんバタ」情報。
最初のご質問に対する直接的なお答えにはなっていませんが、類似の食べ物があっちこっちにあるようですね。
昨日、都内某所の居酒屋でホッピーを飲みながら蛍イカの刺し身かなんか食べていたら(ホッピーというのは東京名物おじさん仕様飲料。若い女性が飲んでいるところを見たことがない)、隣のテーブルにいたおじさん三人組が「口から点滴だあ」とキャッキャ言いながら飲んでいた。
「口から点滴」って、みんな同じようなおやじギャグを考えるものである。
(特別編集委員 野瀬泰申)
[本稿は2000年11月から2010年3月まで掲載した「食べ物 新日本奇行」を基にしています]
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