旅から生まれた挑戦者(5) 旧ビルマで肝炎、生死の境
ハウステンボス社長 沢田秀雄氏
ユーラシア大陸を陸路で渡って帰国する途中、肝炎にかかり生死の境をさまよう。
ビルマ(現ミャンマー)の薄汚れた安宿のベッドで、寝たきりの状態で天井だけを見つめていました。小便は茶色で、鏡に映る顔も茶色で生気がありません。歩くだけで脂汗が出て疲れてしまう状態でした。
ドイツ留学中の渡航先は50カ国を超えた
それでもいずれ治ると考えていました。医者にかかっていませんでしたので病名は分かりませんでしたが、自分は若いし、おいしい食事と休息でそのうち元気になると考えていたのです。
ところがこの判断が間違っていました。肝炎では食事を摂り過ぎではいけないのです。私はその時、まさか肝炎にかかっているとは知りません。食べれば食べるほど病状は悪くなりました。無知であることの怖さを学びました。
このままでは死にきれない。体にむち打って病院に向かいました。たどり着いた現地の病院は掘っ立て小屋のような建物で、門の前には100メートル以上の長蛇の列ができていました。
2~3時間、待たされた診察は数分で終わりました。尿検査や血液検査もなく、渡されたのが古新聞にくるまれた10錠ほどの正体も分からない薬だけ。あまりにもショックで、薬は飲みませんでした。「いよいよ死んでしまう」。絶望的な気持ちが強まっていきました。
ビルマで1週間、寝たきりの状態が続いた。
ベッドであおむけになって天井を見つめ続けるか、窓の外の景色を眺めるだけの毎日でした。テレビもラジオもなく、日本語で話せる相手もいません。死への恐怖や孤独、経験したことのない絶望に襲われながら「もっとあれをやっておけばよかった。あそこにも行きたかった」という後悔の念が押し寄せました。
しかし、ここで何とか踏みとどまりました。「もっと世の中のためになる仕事をしなければ」。そう思い直し、残っていた力をふり絞って空港に向かいました。タイ行きの飛行機で出国、バンコクの病院で近代的な治療を受けることができました。これでようやく病状は回復。日本に帰国の途に就いた時には元気な姿に戻っていました。
この経験が人生でチャレンジすることの大切さを教えてくれました。ビジネスで失敗しても、財産を失うことはあっても命までは奪われません。死ぬ時に後悔しないよう挑戦したいことは何でもチャレンジすべきだと思うようになりました。ビジネスで既得権益の壁に阻まれたり、だまされたりしても何も恐れることはなくなりました。
ドイツ留学は4年半の長い旅だったと言えます。フランクフルトでビジネスの醍醐味に目覚め、ビルマで起業家としての心構えを身につけました。異文化や様々な宗教にも触れ、人間としての幅も広がりました。経営者としての沢田秀雄はまさに旅から生まれたのです。