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造り 日本の料理人は生涯誰も魚の修業を極められない

京都「木乃婦」3代目若主人 高橋拓児

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造りは刺身とも言い、ご存じの通り鮮度のよい旬の魚を包丁で美味しく、そして食べやすく切り、醤油等の調味料で味を加減して食す料理のことです。

イメージとしては、きれいに華やかに盛りつけた切り身を「造り」と呼び、あまり飾り気のない盛りつけの切り身を「刺身」と呼ぶ傾向があるように思います。また、馬肉等の肉類は馬刺と言って造りとは言わず、こんにゃくや湯葉、わかめ、筍なども刺身と呼ぶことがあります。

日本が誇る最高の調理法、造り

基本的には、魚の生食を造りと呼ぶように思います。現代においてはその差異は曖昧ではありますし、そのこと自体は別段重要ではありません。

大事なことは、造りがただ単に魚を包丁で切って、醤油と山葵をつけて食べるものではないということなのです。魚・包丁・調味料、それらのどれをとっても、長い年月をかけて培われ洗練されてきた日本独自の最高の調理法なのです。

それを解き明かす鍵も、日本の歴史上にたくさん隠されています。新鮮な魚、包丁とまな板、そして調味料という造りの3つの要素を、ひとつひとつ見ていきましょう。

日本料理人は誰もみな、魚の修業を完成させることができない

日本は島国であり、北からの寒流である千島海流とリマン海流、南からの暖流である日本海流と対馬海流に周りを囲まれています。このため、日本近海ではたくさんの種類の魚介類の繁殖が促されました。たとえば暖流域の魚は、鯵・鰯・鰹・鰈・鯖・鰆・鯛・蛸・鮃・鰤・鮪などです。そして寒流域の魚は、蟹・鮭・秋刀魚・鱈・鰊・帆立貝などです。

その結果、今日においては、3000種類を超える魚介類が日本の海に生息しています。これほど魚の種類が多い国は、世界を見渡しても類を見ません。海岸部も波の浸食により各地域で複雑な地形となり、魚にとって格好のすみかとなりました。

ここで皆さんに気づいていただきたいことがあります。これら日本に生息する魚介類の多くは生で食べて美味しい魚なのです。鯵や鰹といった魚から海老、帆立貝などの甲殻類まで、多種多様ですがほとんどは生で食べられます。

この生食ができる魚介類の豊富さが我が国固有の日本料理を生みました。まさに、日本は世界に誇る食の海洋国家なのです。そして、その海や川の恵みを表現する代表的なものが、造りなのです。

しかし、日本料理を志す料理人として、これは実は大変なことです。なぜかというと、たとえば毎日1種類ずつ違う魚の調理をし続けたとしても、3000種類も存在する魚をすべて経験するにはざっと10年近くかかることになります。要するに、どんな料理人でも触れたことすらない魚が確実に存在していることになります。

ですから、日本料理の道を歩む料理人は、できるだけいろいろな魚に触れ、その調理法を開発していくことに永久に尽力するのです。80、90歳になっても結局は未完成ですし、未完成のまますべての料理人は死んでいくといっても過言ではありません。

逆に言えば、だからこそ奥が深く面白い道なのです。もちろん、この連載の読者の皆さんにはそこまで理解していただく必要はありません。ただし、ここに挙げる30種類の魚の特徴だけはぜひとも覚えてください。この魚の知識が造りの本質をつかむ第一歩だからです。

生食できるものとそうでないものがありますが、日本料理には欠かせない魚ですので、同時に記憶してください。あわせて漢字も覚えてください。必須です!

鯛(タイ)

鯛はおめでたい魚としてお祝いには欠かせない日本の代表的な魚です。日本には○○鯛という名の魚が数十種類もいて、たとえばアコウダイ・イシダイ・アマダイなどですが、これらは鯛とはまったく関係がありません。

私たちが鯛と呼べるのは、マダイ・チダイ・キダイ・クロダイ・へダイの5種類です。よく食する鯛は、マダイ(真鯛)です。真鯛は日本のいたる所に生息し、1年を通して比較的美味しく食することができます。

真鯛の旬は特に3~4月の産卵の時期です。普段は、海面から30~150メートルのやや深い岩礁にすんでいるのですが、産卵の頃になると、瀬戸内海や伊豆等の内湾に集まってきます。この頃は本当に脂がのっていて、何とも言えない上品な美味しさがあります。

調理法も多く、造り、塩焼き、膾、うしお汁、あら煮、ちり鍋、押し寿司、鯛飯、鯛茶漬など、頭から骨まで捨てるところがありません。さすが魚の王者と呼ばれる所以ですね。

鯛の良し悪しは塩焼きにすると一番よくわかります。焼いた身がしっとりと柔らかく(ぱさぱさはアウトです)、生臭さや磯臭さを感じない味わいであれば、それは産地のよい正真正銘の天然の鯛です。造りでも蒸し物でも何でも大丈夫です。

真魚鰹(マナガツオ)

名前に「鰹」がついていますが、鰹とはまったく縁も所縁もありません。主に関西でよく食べられる高級魚です。

体が平たくて幅が広く、青味がかったグレーで、大きいもので60センチぐらいまで成長します。ほとんど1年中食べられる魚ですが、関西では12月から翌年2月までが旬とされていて、瀬戸内海のものが脂ものって、上物とされています。

どんな食べ方も美味しいですが、日本料理では柚子を使った柚庵焼き、そして特に冬場のみそ漬けをおすすめします。造りも抜群に美味しいのですが、鮮度がすぐに落ちるので、めったにいい状態で食べることはできません。

鮪(マグロ)

鮪と言っても、クロマグロ、メバチマグロ、キワダマグロ、ビンナガマグロなど多くの種類が存在します。クロマグロは鮪の中で最も大きく、背中側が黒い色をしていることからその名がつけられましたが、別名本鮪とも呼ばれ、鮪の中でも最高級魚です。

鮪は一般的に暖かい南の海を好みますが、この本鮪は例外で、日本の南部に生息し夏になると暖流に乗って北上し、三陸沖以北でも多く獲れます。冬になると逆に南へ下り、九州や台湾付近で獲れます。

鮪は6~7月が産卵期なので、旬は1~2月となります。トロをはじめ、その脂や色の赤さからもわかるように鉄分に美味しさがつまっているので、造りで山葵・醤油で食べるのが最も美味しい食べ方です。

メバチマグロは目が大きいことから命名され、熱帯を好み、南洋、ハワイ、インド洋など、夏には日本の中部以南でも獲れます。旬は3~4月と10~11月で、脂分・鉄分ともに少なく、非常にさっぱりとしています。

キワダマグロは、頭に近い背びれ以外のひれが黄色いことからキワダあるいはキハダマグロと呼ばれています。メバチよりもさらに南を好みますが、夏から秋にかけては日本の太平洋岸でも獲れます。旬は7~8月です。

ビンナガマグロは最も小型のもので、ビンチョウとも呼ばれる種類です。メバチと同じような地域に生息しています。ビンナガの身は白みがかっているので、ほかの鮪ほど好まれない傾向にあります。

甘鯛(アマダイ)

京都では「ぐじ」と呼ばれています。海のない盆地の京都では鮮魚が食べられず、鯖同様、若狭であがり塩をして京都まで一晩かけて運ばれるぐじは、京都の人にとってたいへんなご馳走であり、今でもその伝統は続いています。

ぐじは身が柔らかいので塩で締めることで脱水してたんぱく質が変成し、身が引き締まりうま味も増大します。さらに獲れたての鮮度を保ち、腐敗しないようにするためにも塩が必要です。

さて、甘鯛には赤甘鯛、白甘鯛、黄甘鯛があり、料理屋では赤甘・白甘を使います。甘鯛は、沿岸から水深150メートルぐらいの大陸棚がすみかです。鯛とだいたい同じような水深のところに生息していながら甘鯛の身が柔らかいのは、運動量の違いが原因で、鯛に比べて格段に運動量が少ないので、筋肉質ではないのです。

産卵期は5、6月ですので、旬はやはり12月です。味は上品でうま味があり、出しゃばらないので、御椀・造り・焼物・焚合・酢の物・揚物・御飯とすべての調理法に生かせます。料理人にとって、献立に困った時の甘鯛です。

海老(エビ)

海老は「歩く(這う)海老」と「泳ぐ海老」に大別されます。伊勢海老は前者、車海老は後者にあたります。

伊勢海老は、産地のひとつである伊勢湾から名づけられていますが、産地はもっと幅広く、千葉より南の太平洋岸および九州の西海岸にすんでいます。刺身、付け焼き、白みそ仕立ての具足煮などが主な調理法です。

車海老は、松島湾以南の太平洋岸および日本海側で内湾の砂泥地に生息しています。造りや天ぷらなどにされます。

甘海老は別の名をホッコクアカエビと言います。鳥取から青森にかけての日本海側から北海道、ベーリング海、アラスカ、カナダ西岸までの、水深300メートルから1000メートルの深海まで広く生息しています。

春先に産卵して、メスが卵を1年近く腹にある足で抱きかかえて保護し、翌年の冬にふ化します。小海老になって約5年から6年間オスとして成長しますが、交尾してからメスに性転換するという不思議な生態をもっている海老です。つまり市場で見る甘海老の大きなものはすべてメスだということになります。メスの産卵は2年ごとにあり、卵を抱く期間が1年弱で、卵を抱えた甘海老と卵のない甘海老があるのはこのためです。

食べ方としては、氷できゅっと締めて、冷たくなったものを造りで食べるのが美味です。

蛸(タコ)

蛸といえば播州・明石が有名ですが、料理屋では岡山の下津井がよく使われます。蛸は沿岸の岩礁地帯の洞穴などに生息し、夜行性なので夜になると穴から出て、海老や蟹、貝を餌にしています。

蛸には、マダコ、ミズダコ、テナガダコ、イイダコなどがありますが、明石や下津井に代表されるマダコが最も美味しいと思います。春から夏にかけてが産卵期で1、2月が旬となりますが、夏場の蛸も美味しく、調理法は造りや酢蛸、煮蛸などがあります。

 鰆(サワラ)

魚へんに「春」なので、春が旬のイメージを持つかもしれませんが、脂がのるのは1~2月で、ここが最も美味しい季節です。春の彼岸頃の鰆は、旬としては最終の時期となります。

鰆は背中側は青みを帯びたグレーの地に青褐色の斑点があり、腹側は銀白色であることが特徴で、その艶やかな色が鮮度のバロメータです。

北海道南部から九州まで広く分布している魚ですが、特に瀬戸内海で多く見られます。海の浅いところにすむ魚は、だいたい肉質が柔らかく、水分も多いのが特徴ですが、寒鰆と呼ばれる時期の冬の鰆は身が比較的締まっています。冬場は身の状態も鮮度も最高なので、造りでも美味しく食せます。

通常、魚は頭に近い方が脂とうま味があって美味しいといわれますが、鰆は例外で比較的、尾に近い部分がよいとされています。旬の鰆は、造りのほかに、付け焼き、みそ漬けなどに向きます。

蟹(カニ)

ずわい蟹は、別の名を松葉蟹ともいい、三角形に近い甲羅を持ち、甲羅にはコブのような突起があります。メスは体が小さく、香箱蟹とも呼ばれます。島根県以北の日本海側から北海道の南部にかけて獲れます。旬は冬で、焼き蟹や茹で蟹として食します。

渡り蟹は別名を菱蟹ともいい、菱形の甲羅をもった蟹で、9~11月が旬です。味が濃すぎず上品なため日本料理に向き、椀種や揚物、酢の物などに合います。

毛蟹は、主に北海道、そのほか北陸や宮城県などでも獲れますが、やはり釧路の昆布森が最高とされていて、茹で蟹にするのがよいでしょう。

鱈(タラ)

鱈にはマダラ、スケトウダラ、ヒゲダラなどの種類がありますが、日本料理に使うのはマダラです。

マダラは北日本、オホーツク海、ベーリング海などに多くすむ魚で、太平洋側は相模湾が南限です。一方、日本海側はかなり南の方にもいて、水深150~200メートルのところにすんでいます。旬は12~2月で、白子も美味しいので青葱と相性がよく、多くは鍋に使われます。

白魚(シラウオ)

白魚は春の訪れを告げる魚のひとつです。体長5~10センチくらいの細長い小魚で、産地としては島根県の宍道湖のものが有名です。

白魚は鮮度が落ちやすく、味もすぐに落ちてしまいます。鮮度を見分けるには、水に入れてみます。透きとおって青く光って見えるものが新しく、また手で触ったときにべたついていないのが新鮮なものです。やはり、白魚は天ぷらで食べるのが一番でしょう。

鰈(カレイ)

日本料理で使う主な鰈は次の3種類です。

・目板鰈

一般に目のある側が薄い褐色で暗褐色の斑紋があります。輪郭は円形に近く、体長は30センチぐらいにまで成長します。造りや揚物にします。

・真子鰈

北海道南部から南日本にかけて広く生息しています。九州で城下鰈というのはこの種類を言います。体長は30センチほど。6月から9月まで旬で、特に夏が美味しいです。造りで食べるのが一番です。

・柳虫鰈

成長しても体長が20センチぐらいにしかならない小さい鰈で、京都では笹鰈と呼び、高級干物として重宝されています。

針魚(ハリヨ)

銀色で細長いことから、針魚もしくは細魚とも書きます。北海道から台湾にかけて幅広く生息している沿岸性の魚です。

あっさりとして洗練されたうま味を持ち、酢の物、造りなどに向いています。産卵期は5~6月で、旬は3~4月です。

茂魚(アコウ)

アコウダイと呼ばれる場合もありますが、鯛の仲間ではなくカサゴ科に属する深海魚です。水深200メートルよりも深い岩礁に生息しています。

夏を彩る高級魚で、造りや洗い、落とし(湯引き)にして使います。御椀にしても絶品です。

鰹(カツオ)

鰹は暖かい南の海面で卵からかえり、春になると暖流に乗って日本にやってきます。暖流のプランクトンを餌とする鰯の後を鰹が追う形でやってくるのです。1~2月になると小笠原諸島周辺まで近づき、さらに暖流の勢いに乗って、3月に八丈島、4月から6月に房州沖、6月から7月に常磐沖、7月から8月に金華山沖、8月から9月に三陸沖とダイナミックに移動します。そして秋になり水温が下がり始めるとまた南の海へ帰っていきます。

このように鰹は回遊魚ですから、季節によって脂ののり方がまったく違います。北上するにつれ脂を少しずつ蓄えていくため、南の九州や四国の人たちはあっさりした鰹を先に食べますから、鰹の旬は初夏の頃とし(初鰹)、関東以北の人は脂ののった鰹を食べますから、旬は秋だとする(戻り鰹)、そういう違いがあります。

基本的には、夏の鰹は藁でいぶした叩きで、秋以降は叩きでも造りでもよいと思います。

鯵(アジ)

鯵は、暖海性の魚のため北海道では獲れず、また外洋性の水を好むので、瀬戸内海などでも獲れません。千葉、神奈川、山口、長崎などが主な産地です。

特に6月から8月頃までが旬で、叩きや、一塩干しを焼いたり、寿司にするのもいいと思います。

鱸(スズキ)

鱸の旬は夏で、ちょうど河口周辺に暮らす時期にあたります。特に関西では瀬戸内のものが有名ですが、河川の香りが身につきやすく、産地に影響されやすい魚です。

夏の鱸は淡白な中に独特のうま味がたっぷり含まれるので、造り、洗い、吸い物種、塩焼きなどに向いています。

鱧(ハモ)

祇園祭は別名鱧祭りと言われているほど、京都では身近な魚です。内陸にある京都で新鮮な魚のひとつとして、生命力の強い鱧が重宝されたのでしょう。

鱧は熱帯から温帯にかけて幅広く分布しています。日本では瀬戸内海から九州にかけて獲れますが、明石や淡路島が代表するように、瀬戸内海のものが品質が高いとされています。

鱧の旬は夏です。大部分の魚が、産卵直後には味が落ちるのに比べて、鱧は梅雨時から夏に産卵するものの、夏が美味しいという個性的な魚です。

鱧を素材と仕立てるのに避けて通れないのが骨切りの工程です。鱧には1センチから2センチくらいの細く固い小骨が、背肉の頭から尾に向かって、皮ぎりぎりまでびっしりと並び、ひとつずつ抜き取ることが困難なため、これを口に当たらないように切る必要があるのです。

開いた鱧を、まな板の手前の端に皮肌を下に密着させて置き、鱧専用の骨切り包丁で皮に届くところまで一定の間隔に包丁目を入れます。身とともに小骨を切り、皮肌の裏面に切れ跡を残しながらも、皮一枚でつなげるという高度な技術が要求されます。その包丁目の間隔が近ければ近いほど小骨は細かく切られ、口に触らないわけです。だいたい一寸を24に切ります。

こうして鱧は、湯引き、付け焼き、塩焼き、御椀、寿司などさまざまな夏の京都を代表する料理となります。

鰻(ウナギ)

成魚は全長1メートル、最大で1.3メートルほどになります。養殖物は背中側が黒く腹側は白いのですが、天然物は背中側が青緑色や灰褐色、腹側が黄色のものもいます。また、産卵のため海に下った鰻は背中側が黒色、腹側が銀白色になる婚姻色が生じ、胸びれが大きくなります。

鰻は川の中流から下流、河口、湖、内湾にも生息しています。一般的に淡水魚として知られていますが、海で産卵・ふ化を行い、淡水にさかのぼってきます。

関西では鰻を腹から裂き、関東では背から裂きます。そして関西では蒸しませんが、関東では蒸すという違いがあります。また白焼きのものは山葵醤油で食しますが、やはり蒲焼きが代表的です。

穴子(アナゴ)

穴子は北海道から九州まで全国各地にすんでいます。特に砂や泥の土地を好み、日中は物陰に隠れていますが、鰻同様に夜行性です。ほかの魚に比べて、穴子は1年中味があまり変わらないとされています。

煮穴子、焼き穴子にして、ちらし寿司や炊き込み御飯にするのもよいですし、湯引きも美味しいものです。

鱚(キス)

鱚は細長く丸みを帯びた体型で、口はとんがっていて、背中側は薄い飴色、腹側は銀白色というのが特徴です。

日本の本州中部以南の沿岸に多く、8~9月頃が産卵期です。味は1年中それほど変わりませんが、産卵前の夏の間は特にうま味がのって美味しいです。淡白で上品で、刺身(糸造り)、塩焼き、酢の物、吸い物種、天ぷらなどに向きます。

鰯(イワシ)

鰯にはマイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシなどの種類が含まれますが、通常、鰯という場合はマイワシを指します。3センチぐらいの幼魚はシラスと呼ばれ、釜上げにして売られています。ウルメイワシは雑節としてだしをとるのに使いますし、カタクチイワシは煮干しです。

鰯は外海の表面近くにすむ魚で、群れを作って行動する回遊魚です。夏は暖流に乗って北上し、秋冬には南下します。全国各地で獲れる魚ですが、特に北海道の西南部、房総半島、九州西南部、山陰地方の沿岸などで多く獲れます。

産卵を終えた鰯は脂がなくなってしまいますが、秋になると脂がのり、美味しくなります。

鯖(サバ)

鯖にはマサバとゴマサバの2種類がありますが、マサバの方が格段に美味しいですし、値段にも歴然とした差があります。ゴマサバには名前通り、ごまをふりかけたような斑点があるので、見た目ですぐ違いがわかります。

「鯖の生腐れ」と言われるほど傷みが早い魚なので、細胞に含まれる消化酵素が反応し身が分解される前に(獲ったらすぐに)、塩と酢で締める締め鯖は理にかなった処理法なわけです。塩焼きやみそ煮も美味しいですが、やはり秋から冬にかけての旬の鯖寿司は絶品です。

鮃(ヒラメ)

鮃は北海道から九州まで広く生息する魚で、砂地を好みます。

2月から6月にかけてが産卵期のため、鮃本来の味が味わえるのは9月から翌2月頃までですが、11月以降の寒い時期が美味しいとされています。やはり、造りが美味しい魚です。薄造りでぽん酢と合わせるのもよいと思います。

白身魚の中では特に淡白で繊細さがきわ立ち、とても上品です。一方、縁側と呼ばれる脂ののった部位も美味です。

烏賊(イカ)

日本料理に使う主な烏賊を紹介します。基本的に味が淡白なので、本来の風味を味わうためには、造りが一番です。

・ヤリイカ

槍の穂先の形に見える烏賊です。沖縄を除く日本全国で獲れ、上品であっさりした甘みを持ち、造りに向きます。

・アオリイカ

胴が45センチぐらいの大型の烏賊で、本州の中部以南、九州でたくさん獲れます。肉質は硬く甘みがあり、烏賊の中でも遊離アミノ酸が一番多くうま味が強いです。この烏賊も造りが美味しいです。ヤリイカやコウイカは冬が旬なのに対し、アオリイカは春から夏が旬です。

・コウイカ

胴の中に船形をした甲羅があり、本州、四国、九州で獲れます。関西では、モンゴウイカ、東京ではスミイカ、マイカと呼ばれています。この烏賊も肉厚で味がよく、造りや天ぷらに向いています。

鮒(フナ)

鮒といえば、琵琶湖沿岸、特に大津や彦根周辺で作られる「鮒寿司」が有名です。琵琶湖の源五郎鮒から作られるもので、寿司のルーツとも言われています。これは卵を持った鮒を塩漬けし、その後御飯と麹を加えて発酵させ、熟成させたものです。鮒は、冬が旬です。

鯉(コイ)

鯉は日本各地に生息しており、日本料理では薄く切って刺身にした鯉の洗いやみそで煮込んだ鯉こくが知られていますが、原産地は中国で、3000年も前から食べられている魚です。鯉には独特の臭みがあるので、いったん清流に泳がせて身の臭みを抜いてから調理します。

鮎(アユ)

鮎は香魚と呼ばれ、独特の香気を持っています。日本各地の清流にすんでおり、稚魚のときは動物性のものを食べて育ちますが、成長とともに川の石に付着している藻などを食べるようになります。川によって育つ藻の種類が異なるので、鮎の香りも当然のことながら違ってきます。ですから、天然鮎は味の美味しさもさることながら、そのきゅうりのような青い香りを楽しむものです。

鮎の旬は7~8月、脂がのって最も美味しくなる時期です。造りや鮎寿司もありますが、炭火で焼く塩焼きに勝るものはないでしょう。蓼酢で食べるのが一般的です。

鰤(ブリ)

北西太平洋に分布する魚で、日本では、日本海南部と北海道南部から九州にかけての太平洋岸に広く生息しています。通常は群れを作っていますが、季節によって場所を変える回遊魚です。春から夏には北上し、初冬から春には沖合いを南下します。南下する時期の鰤は寒鰤と呼ばれるもので、春の産卵に備えてせっせと餌を食べているのでよく太り、脂もたっぷりとのってとても美味しい時期です。冬の富山県の氷見の鰤は味も値段も別格です。

河豚(ふぐ)

日本の周辺には20種以上の河豚がすんでおり、そのうち食用にしているものとしてトラフグ、マフグなどが有名ですが、トラフグの方が格上です。

トラフグは南日本に多く、体長70センチ程度の大型の河豚です。暗褐色で腹側が白く、胸びれの後方と背びれのつけ根に大きな黒い点があるのが特徴です。

一方、マフグはトラフグに比べるとかなり小型で体長40センチぐらい、薄い褐色を帯び、胸びれの後ろにある黒い点のまわりが白いので、トラフグとは区別できます。

河豚は、内臓、皮膚、血液、筋肉の一部にテトロドトキシンと呼ばれる神経毒が含まれます。ですので、それ以外を薄造り(てっさ)、焼き河豚、唐揚げ、鍋物(てっちり)等にして食します。12~2月の冬の代表的な魚です。

貝類

・牡蠣(カキ)

牡蠣には、冬が旬の真牡蠣と、夏が旬の岩牡蠣がよく知られています。干潮時には水がない場所にすむ場合もありますが、グリコーゲンを多く蓄えているおかげで、ほかの貝と違って水がないところでも1週間は生きていられます。

グリコーゲンのほか、必須アミノ酸に富むたんぱく質やカルシウム、亜鉛などのミネラル類をはじめ、さまざまな栄養素が多量に含まれるため、「海のミルク」とも呼ばれているほど味は濃厚です。生牡蠣、牡蠣フライ、土手鍋、牡蠣御飯等、バリエーションも豊かです。

・帆立貝(ホタテ)

養殖が盛んな貝のひとつで、三陸海岸から北海道にかけてが主産地です。帆立貝特有の甘さはグリコーゲンに由来するものです。このほかうま味成分であるアミノ酸、グルタミン酸、コハク酸やタウリンなどがたっぷり含まれています。

当然ながら天然物も存在し、養殖より風味が豊かです。日本料理ではよく使う食材で、すり身にして椀種や、酢の物、揚物、焼物、御飯と大活躍の食材です。

・蛤(ハマグリ)

東北地方から南の海岸で、真水が入りこまないような砂地の浅い海にすんでいる貝です。春になって水温が上がってくると、砂の表面に顔を出します。成分にコハク酸を多く含み、うま味に富みます。

10~翌3月までが美味しい季節で、蛤から出る汁と鰹節と昆布のだしで割って、御椀によく使います。春先に木の芽をあしらってお出しします。

・赤貝(アカガイ)

赤貝は北海道南部から九州にいたる広い範囲の海岸の砂泥底にすむ貝です。

赤貝を切ると赤い血が流れますが、これはほかの貝とは違って、血液中にほ乳類と同じヘモグロビンという色素を持つためで、名前の由来にもなっています。産卵期は6~9月のため、2~3月が旬で、生で酢の物や造りとして食します。

・鳥貝(トリガイ)

水深数メートルから数十メートルの内湾の泥地に生息し、日本では三河湾、伊勢湾、瀬戸内海、日本海側では能登、舞鶴、宮津が主な産地です。黄褐色の成長した貝の表面は短い毛に覆われています。

厚みがあり、色の黒いものが質がいいとされています。旬は太平洋側では春先、日本海側では初夏です。香りに少々クセがあるので、さっと湯がいて造りにするか、炙って食するのがよいです。

・鮑(アワビ)

北海道南部から九州までの太平洋側の、水深20メートルぐらいの岩礁に生息し、わかめ、昆布などの褐藻類を食べて育ちます。クロアワビ、メガイアワビ、エゾアワビ等があります。

鮑は11月頃が産卵期ですから、7~9月頃が旬です。クロアワビが最高峰で、2キロのものもあります。ただし、エゾアワビは東北・北海道沿岸に生息し、旬は冬です。

身には、グルタミン酸などのアミノ酸がたっぷり含まれて、濃厚なうま味を堪能できる食材のひとつです。造りや柔らか煮、酢の物、天ぷらもよいですね。

醤油で魚を食べるのは、「和風」ではなく「中華風」

最後に造りの調味料についてご説明します。現代では、当たり前のように大豆から造った醤油で造りを食しますが、これも歴史的に見れば中国料理風の食べ方です。それは醤油のルーツを調べれば、中国の「醤」にたどり着くからです。

中国の周の時代、日本では縄文時代末期にあたりますが、その頃日本では魚に塩をしたものが発酵することで自然発生的に魚醤が生まれたといわれています。ですが、本格的に醤油の元になる「醤」が造られるようになったのは古墳時代で、これは中国から入ってきた「唐醤」で大豆を加熱処理した後、塩・麹・水を加えて粥状にして発酵させたものと考えられています。どちらかと言えばみそに近い感じです。

奈良時代に入ると醤院という役所が設けられ、大豆・小麦・米等を使った醤が専門に造られるようになりました。平安時代に入ると貴族の宴会の際に調味料として、塩・酒・酢と並んでお膳に添えられ、貴重なものとして扱われるようになります。さらに鎌倉時代になると、「醤」から「たまり」というものが現れます。つまり、ひとつの桶の中でみそから醤油の元となる部分が分離し、それぞれの使い分けを始めたということです。

室町時代に入ると、袋に入れてポタポタ垂らすというわざわざ漉す作業が入って、「しょうゆ様」なるものができあがりました。実際に古文書で「醤油」と記載されているのは、1597年、関ヶ原の合戦の3年前です。中国の「醤」という固体から「醤油」という液体になるまで、本当に長い年月がかかっているのです。

海外から流入してきた醤(いわば輸入車です)から日本の土着の酵母に合う醤油を生産し、多種多様な食材と合わせながら取捨選択してきた中で、今あるたまり醤油・濃口醤油・薄口醤油などができあがりました。もともと外国から輸入したものが、現在日本料理の基本の調味料になっているのはとても面白いことだと思います。

このように、「造り」と一言で片づけてしまいますが、歴史的にその要素を突き詰めてみていくと、日本独自のものと外国の文化が非常にうまく融合していることがわかります。融合したものを日本料理だと言わしめるその前提条件として、長い月日が必要であると言えるのではないでしょうか。「造り」も本当に意味深い料理のひとつです。

[「10品でわかる日本料理」(日本経済新聞出版社)から抜粋]

高橋拓児(たかはし・たくじ)

1968年京都生まれ。大学卒業後5年間「東京吉兆」での修業の後、実家である京都の老舗料理店「木乃婦(きのぶ)」の3代目若主人に。シニアソムリエ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。

木乃婦HP=http://www.kinobu.co.jp/

10品でわかる日本料理

著者 : 高橋拓児
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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