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プロから学ぶ日本料理の基本

八寸 季節感込めて、視覚を刺激する「酒のあて」 京都「木乃婦」3代目若主人 高橋拓児

2016/5/12

 伝統の日本料理。メニュー構成や盛り付け方など、その根底にある考え方は、実はあまり知られていないのではないでしょうか。そんな日本料理の「コンセプト」を京都の老舗料理店「木乃婦」の3代目が、一般向けに分かりやすく解説します。

日本料理を本当に美味しく食べるために、知らなければならないこと

懐石料理=PIXTA

 八寸を語る前に、まず日本料理が一般にどう理解されているかと言えば、次の通りかと思います。

「日本料理とは、四季折々の新鮮な食材を用い、素材の味や色を生かしながら、昆布と鰹節のだしのうま味を基本とし、繊細な感覚で器との調和をはかり、美しく盛りつけられた低カロリーで健康によい料理である」

美しく盛りつけられた低カロリーで健康によい料理

 残念ながら、この捉え方では、何度日本料理を食べに行っても、「ああ、美味しかったなあ」という一言で終わりです。献立の中の一品一品が担っている役割を理解できず、美食家(グルメ)にはなれても食通にはなれません。

 なぜなら、日本料理に対する歴史的視点でのアプローチがないからです。歴史的視点でのアプローチとは簡単に言えば、日本料理の型を知ることであり、それを知ればおのずと先に書いたような日本料理の定義も見えてきます。そしてこれこそが、日本料理を最大限美味しく食べるための作法と言うべきものなのです。

岩牡蠣

 日本料理の基本的な献立は、八寸、造り、御椀、焼物、焚合、酢の物、蒸し物、御飯・汁・香物、水物という順番で出てきます。皆さんにはこれらの型を楽しみながら知っていただきたいと思います。読み終わる頃には、今までよりも日本料理が美味しく感じられるはずです。

 前置きが長くなりましたが、まずは八寸から進めていきます。八寸、はっきりわかりやすく言えば、「酒のあて」です。

 献立の中で出てくる順番としては、先付(日本料理の前菜)の役割も担い、最初にくる場合もありますし、御椀の次にくる場合もあります。煮る、焼く、揚げるなどの調理法にかかわらず、季節を代表する食材が一皿に盛ってあるものを言います。基本的には、海のもの、山のもの(精進もの)を盛り合わせて構成し、その時の日本の季節を端的に表現する一品です。

「八寸」の名前の由来とは

「一口大」がキーワード=PIXTA

 ではなぜ、季節感を表現した料理が今現在、八寸という名称で呼ばれるようになったのでしょうか。その起源は奈良時代にあります。八寸の歴史をさかのぼってみましょう。

 鍵は、「八寸」という言葉自体の意味にあります。八寸の「寸」は「寸法」に起因するもので、これは中国に起源を持つ尺貫法の長さの単位です。単に直訳すれば、「八寸」は1寸×8という長さを表します。1寸は3.03センチですので、8寸は24.24センチ、約24センチです。中国語で長さを表す言葉が、日本ではひとつの料理名となったのです。たいへん面白いことです。

一口大

 さて、この「八寸」という料理名には日本の箸文化が深く関わっています。日本の箸文化を形成したのは、皆さんご存じの聖徳太子でした。彼が中国に小野妹子ら遣隋使を派遣し、帰国した際に多くの中国文化が伝わりました。その中に中国の食事の作法として、箸で食べる文化があったのです。当時の中国では食卓にナイフはなく、厨房であらかじめ、箸で食べやすい一口大に切られたうえで提供されました。その結果、箸が普及していったと言われています。

「一口大に切る」。ここが八寸という言葉の由来を探るためのキーワードなのです。一口大に食べ物を切ることを考えると、当然目安は口の横の長さであり、それから考えると適切な大きさは、幅3センチくらいであることは皆さんにもご理解いただけることと思います。

食べやすい大きさ

 あっ! 3センチはおおよそ一寸ではないでしょうか!

 八寸という名称に一歩近づきました。近づいたところで、八寸の歴史は一気に戦国時代に飛びます。実は、利休居士、皆さんご存じの茶の湯の大成者・千利休が八寸の生みの親です。

「八寸」という言葉は利休居士が京都洛南の八幡宮の神器からヒントを得て作ったと言われ、そもそもは八寸角の杉の角盆を意味しました。これは一度使うと再度使わない、使い切りの器でした。やがて、それに盛られる酒肴のことを意味するようになり、現在では献立の名称へと変化したのです。

「八寸」は視覚を最も刺激する料理である

その時期しか食べられないものを=PIXTA

 献立名としての「八寸」は、茶懐石に端を発し、一期一会の好機を得て主となり客となった喜びをこめて、亭主と客が盃を交わす場面で出されるものを言います。正式には八寸四方の杉のお盆を使い、酒の肴として、海のものと山のもの(精進もの)を合わせて出すことが決まりとされています。

「八寸」のお盆は十分に湿らせ、右向こうに海のもの、左手前に精進ものを盛り、手前に両細の青竹箸を濡らし、露をきって斜めに添えます。それら全体が、清浄で穏やかな雰囲気を醸し出します。

 同時に、その食材はその時期しか食べることができないもので、今年の今日に食したら、来年の今ごろまで出合うことができないという希少な価値をもつものです。もちろん、食べ物に対する感謝の念やそれを重んじる価値観も生み出します。

 また、「八寸」は、献立の中で特に視覚を刺激する料理ですので、ほかの品との調和が大切です。つまり、聴覚、味覚、嗅覚、触感に特化したほかの料理との組み合わせや、献立全体を通し最初に出すのか真ん中で出すのか最後の方で出すのか、全体のバランスも考える必要があります。

季節感や色合いなど全体のバランスも考える

 次に、杉板の八寸盆への盛りつけを考えてみましょう。

 正八寸角の杉の盆は、一辺がおおよそ24センチの正方形です。そこに海のもの、精進ものを1種ずつ盛っていくのですが、この時両方の食材とも直径6センチくらいの円の中に盛り、さらに互いの中心が対角線上に並ぶようにします。24センチ四方の正方形の対角線の長さは、34センチ弱で、八寸盆は角が切ってありますので、おおよそ30センチくらいです。

 きれいに見える配置は、対角線上に海のもの、精進もの2種類の食材をそれぞれ直径6センチの円の空間内に盛りつけ、盛りつけていない空間と食材が6センチずつ交互に配置されるようにしたものです。3センチが6センチの空間を生み出し、6センチが30センチの空間をきれいに見せ、24センチ四方でまとめあげたものが八寸となるわけです。

 これは日本独特の寸法による日本の伝統的な型です。この型を覚えてこそ日本料理の料理人になれますので、私たち料理人はまず一寸に食材を切れるように練習します。その次は二寸、その次は四寸、最後にざっと八寸の長さを定められるようにし、最終的には身体で覚え、その体感でそれらの長さに切れるようになります。

[「10品でわかる日本料理」(日本経済新聞出版社)から抜粋]

高橋拓児(たかはし・たくじ)

1968年京都生まれ。大学卒業後5年間「東京吉兆」での修業の後、実家である京都の老舗料理店「木乃婦(きのぶ)」の3代目若主人に。シニアソムリエ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。

木乃婦HP=http://www.kinobu.co.jp/

10品でわかる日本料理

著者 : 高橋拓児
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,620円 (税込み)

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