日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/18

集約農業が生物多様性に悪影響を及ぼすのは明らかである。広大な土地に単一の作物を植え、農薬を使用し、頻繁に草を刈ったり耕したりしている農場では、野生の動植物はほとんど生き残れない。また、肥料や集中的な畜産によって繁茂する草は、チョウが必要とする種類の植物を駆逐してしまう。

その一方で、人間の介入が少なすぎても草原の生態系に悪影響を及ぼし、チョウの個体数を減らしてしまうことが、ステファネスク氏のデータから明らかになった。「農業の集約化だけでなく耕作放棄地の森林化も、チョウの激減の原因なのです」と彼は言う。

野生のタイムの蜜を吸うゴウザンゴマシジミ(Phengaris arion)。パイザッチャス・ビウスがスペイン、カタルーニャ地方に設けたマイクロ保護区で撮影(PHOTOGRAPH COURTESY PAISATGES VIUS)

土地を再生させる「リワイルディング」

スペインでは放棄された農地が森林に置き換わりつつある。数十年前から農村部の過疎化が進んだことにより、現在は国土の4分の1が森林に覆われている。これは1900年の3倍の面積だ。植林と自然再生により、スペインの森林面積は毎年約1%ずつ増加している。

一部の自然保護主義者にとっては、これは本来必要のない辺境の土地を自然に返すチャンスであり、良いことのように見える。すでにスペインでは、森林に生息する鳥や、オオカミやアイベックスなどの大型哺乳類が戻ってきつつある。

しかし、使われていない農地を野放しにするだけでは解決にならないと、オランダの非営利団体「リワイルディング・ヨーロッパ(Rewilding Europe)」の景観部門の責任者であるデリ・サアベドラ氏は言う。リワイルディング(再野生化)は近年ヨーロッパでさかんになってきた運動で、荒廃した土地に野生馬などの大型草食動物や頂点捕食者を導入し、生息地を回復させようとする活動を指す。大型草食動物は、草原を維持し、火災のリスクを減らすことで、環境を「機能的」に保っていると彼は言う。

サアベドラ氏のグループは、スペイン中東部のイベリア高地に広がる8000平方キロメートル以上の放棄された牧草地に半野生の草食動物を再導入するプロジェクトを進めており、現在は初期段階にある。「この土地の再生の鍵を握っているのは草食動物なのです」と彼は言う。

バルセロナの北の耕作放棄地に密生するシダ。15年前に放棄されるまではゴウザンゴマシジミなどのチョウが生息する牧草地だった。パイザッチャス・ビウスは、この場所をもとの姿に戻そうとしている(PHOTOGRAPH COURTESY PAISATGES VIUS)

「マイクロ保護区」作戦

ピレネー山脈の高地ではアルコンブルー(Phengaris alcon)というチョウの保護活動が進められている。アルコンブルーは青とベージュの翅(はね)をもつゴマダラシジミ属のチョウで、カタルーニャ地方を代表するチョウである。

生物学者のイレーヌ・フィゲロア氏とギレム・マス氏は、四輪駆動車で山道を登っていった。野生の花が生い茂る人里離れた牧草地に到着すると、フィゲロア氏はアルコンブルーの食草であるリンドウを見つけた。