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ヨーロッパでチョウの5種に1種が絶滅危機 一体何が?

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ナショナルジオグラフィック日本版

生物学者のコンスタンティ・ステファネスク氏は、25年前の夏から毎週、スペイン、カタルーニャの各地を歩いてチョウを数えている。2020年7月のある晴れた日、彼はフランスとの国境、ピレネー山麓の草原に足を踏み入れた。昔は、この草原に咲く野生の花々に集まるヒメシジミを50匹も60匹も数えたものだった。

この草原にチョウが多かったのは、農家が年に1、2回だけ草を刈り、その干し草を冬の間の家畜の餌にするという昔ながらのやり方で牧草地を維持していたからだ。しかし、ステファネスク氏がこの場所でチョウのモニタリングを始めてから数年後、農家は牧草地の管理をやめてしまった。やがてイバラが茂って野草を駆逐し、ついには森になった。森に適応した数種のチョウが現れたが、ステファネスク氏がかつて記録していたような多様性は失われてしまった。

カタルーニャ地方に生息するチョウの約90%は、花の豊富な草原を生息地としている。しかし、これら草原のチョウは、ヨーロッパ全体で激減している。科学者らの報告によると、草原性チョウ類の生息数は1990年から2017年までの間に39%も減少している。なかでも顕著だったのがカタルーニャ地方だ。ここでは過去25年間で、最も一般的な草原性チョウの個体数が71%も減少した。

チョウを圧迫している要因は2つある。一つは、小規模な畜産場が工業的農業に取って代わられたこと。チョウに優しい小さな草地が、トウモロコシやヒマワリなどの単一作物の大規模な畑に変わってしまっている。もう一つが、牧草地や畑が放棄され、森林へと変わりつつあることだ。どちらの変化もチョウを脅かしている。

ヨーロッパ全体で減っている

現在、ヨーロッパのチョウの5種に1種が絶滅の危機にひんしているか、それに近い状態にある。オランダでは1990年以降、生息するチョウの半数が失われた。ドイツでも、クレーフェルト昆虫学会が2017年の研究で、自然保護区における昆虫の生息数が27年間で75%も減少したことを明らかにした。近年の多くの研究から、チョウだけでなく、あらゆる昆虫の個体数が激しく減少していることがわかっている。

チョウと生息地を共有し、その幼虫を食べる農地の鳥たちも激減している。例えばフランスでは、過去30年間で農地の鳥の3分の1が失われた。

昆虫や鳥が暮らす土地も問題を抱えている。欧州連合(EU)の草原の4分の3以上において「好ましくない」保全状況にあり、なかでも英国とオランダでは半自然草原の残存率が5%以下である。

国連環境計画(UNEP)は、世界的な種の損失の主な原因な農業だとしている。しかし、草原やそこに生息する昆虫や鳥の保全に関しては、農業はそのやり方次第でプラスにもマイナスにもなる。

集約農業が生物多様性に悪影響を及ぼすのは明らかである。広大な土地に単一の作物を植え、農薬を使用し、頻繁に草を刈ったり耕したりしている農場では、野生の動植物はほとんど生き残れない。また、肥料や集中的な畜産によって繁茂する草は、チョウが必要とする種類の植物を駆逐してしまう。

その一方で、人間の介入が少なすぎても草原の生態系に悪影響を及ぼし、チョウの個体数を減らしてしまうことが、ステファネスク氏のデータから明らかになった。「農業の集約化だけでなく耕作放棄地の森林化も、チョウの激減の原因なのです」と彼は言う。

土地を再生させる「リワイルディング」

スペインでは放棄された農地が森林に置き換わりつつある。数十年前から農村部の過疎化が進んだことにより、現在は国土の4分の1が森林に覆われている。これは1900年の3倍の面積だ。植林と自然再生により、スペインの森林面積は毎年約1%ずつ増加している。

一部の自然保護主義者にとっては、これは本来必要のない辺境の土地を自然に返すチャンスであり、良いことのように見える。すでにスペインでは、森林に生息する鳥や、オオカミやアイベックスなどの大型哺乳類が戻ってきつつある。

しかし、使われていない農地を野放しにするだけでは解決にならないと、オランダの非営利団体「リワイルディング・ヨーロッパ(Rewilding Europe)」の景観部門の責任者であるデリ・サアベドラ氏は言う。リワイルディング(再野生化)は近年ヨーロッパでさかんになってきた運動で、荒廃した土地に野生馬などの大型草食動物や頂点捕食者を導入し、生息地を回復させようとする活動を指す。大型草食動物は、草原を維持し、火災のリスクを減らすことで、環境を「機能的」に保っていると彼は言う。

サアベドラ氏のグループは、スペイン中東部のイベリア高地に広がる8000平方キロメートル以上の放棄された牧草地に半野生の草食動物を再導入するプロジェクトを進めており、現在は初期段階にある。「この土地の再生の鍵を握っているのは草食動物なのです」と彼は言う。

「マイクロ保護区」作戦

ピレネー山脈の高地ではアルコンブルー(Phengaris alcon)というチョウの保護活動が進められている。アルコンブルーは青とベージュの翅(はね)をもつゴマダラシジミ属のチョウで、カタルーニャ地方を代表するチョウである。

生物学者のイレーヌ・フィゲロア氏とギレム・マス氏は、四輪駆動車で山道を登っていった。野生の花が生い茂る人里離れた牧草地に到着すると、フィゲロア氏はアルコンブルーの食草であるリンドウを見つけた。

青い花をかき分けると、つぼみのそばにピンの頭ほどの小さな白い点があった。チョウの卵だ。アルコンブルーはヨーロッパで絶滅の危機にひんしており、その生息地のほとんどで個体数が減少している。

このチョウの大きな問題は、生息地が限られていて、それが激減している上、繁殖に必要な食草が1種しかないことにある。特定の種のアリと寄生関係にあることも問題だ。彼らはフェロモンや音を使ってアリをだまし、冬の間、幼虫を巣にかくまってもらっている。「すべての条件を満たす場所はほとんどありません」とフィゲロア氏は言う。

そこでフィゲロア氏とマス氏が取り組んでいるのが「マイクロ保護区」づくりだ。政府の公式ルートを通じて種の保護をはかろうとすると何年もかかってしまうので、彼らは絶滅の危機に瀕している植物や動物のほか、花咲く草原のような生息地も探し出し、迅速に保護しようとしている。

彼らの保護区は人間を締め出すためのものではない。彼らは土地所有者と直接交渉して、環境をどのように管理するかを決定する。よく管理されている土地なら、土地所有者がこれまで行ってきたことを継続し、変更を加える場合にはフィゲロア氏とマス氏に連絡することを約束してもらうだけだ。一方で、土地所有者にそれまでのやり方の変更を求め、変更に伴う損失を補償する場合もある。

例えばこの草原では、牧場主に草刈りの時期を遅らせたり回数を減らしたりするように依頼している。そうすることで、アルコンブルーのライフサイクルを全うさせると同時に、フィゲロア氏とマス氏が野草の種子を集めて近くの荒廃した草原を回復させ、チョウの生息地を広げることが可能になる。

また、草刈りの回数を減らしてもらう代わりに、ほかの農家から購入した干し草を牧場主に提供している。さらに、地元の農家との友好関係を深めるために、最近、牧草地の中を通る道路の一部の修復も行った。

これは、すぐにできる仕事でも簡単な仕事でもないとマス氏は言う。環境保護活動家と農家は対立しがちで、協力関係にある農家の中にも「面倒で割に合わない」と考える人もいるという。自然保護はますます複雑になっているとマス氏は言う。

「昔は生息地の喪失だけを考えればよかったのですが、今では外来植物や気候変動や化学物質など、さまざまな問題があります。ほかの問題にうまく対処できたとしても、気候変動のように、すべてを変えてしまうおそれのある問題もあります」

例えば、アルコンブルーが頼りにしているアリは、地面の温度の変化に敏感に反応する。「これは将来的にコントロールできないことです」とマス氏は言って、考え込んだ。

斜面の草地に咲く花々を飛び回るチョウやハチを守るのは、おそろしく大変な仕事なのだ。種子を採取し、草原を再生させ、干し草を提供したりトラックの窓ごしにおしゃべりをしたりして保全に消極的な牧場主との間に信頼関係を築かなければならない。しかし、それこそが人間と自然のバランスを取ろうとする現場の姿なのかもしれない。

ステファネスク氏は言う。「何百年も何千年も人間が利用してきた古くからある環境では、互いに協力し合うことで、最高レベルの生物多様性が達成されるのです」

(文 BRIDGET HUBER、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月29日付]

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