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農作物の未来 顕微鏡を通した異世界きっかけに考える

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

サラダからデザートまで、食卓の皿に載っている食品の多くは、丹念に栽培された作物に由来する。あなたが食べている肉でさえ、おそらくは作物を食べて育った動物のものであり、太陽から得たエネルギーを地球規模の食物連鎖に送り込んでいる。

現代の農業はしかし、環境に大きな負担をかけている。トウモロコシやダイズといった作物の多くは、化石燃料を使った肥料や農薬によって維持される大規模な農場で育てられる。野焼きを伴う農業は森林を減らし、大気中に余分な二酸化炭素(CO2)を放出する。過剰に耕した土は、土壌をまとめる真菌ネットワークを破壊し、干ばつによってすでに疲弊している水資源を浪費して、浸食を助長する。

これらは、われわれの食料システムが気候変動と結び付いていることを示す例のごく一部にすぎない。2021年9月13日付で学術誌「Nature Food」に発表された推計によると、農業が温暖化ガス排出量に占める割合は30%以上にのぼるという。

持続可能な農業に向けた動きの一環として今、多くの食料生産者や投資家たちが、先進的な方法や、はるか昔に使われていた方法を取り入れつつある。こうした取り組みは「環境再生型農業」と呼ばれる。たとえば、植物の遺伝的多様性を高めたり、大気中の窒素を固定して土を覆う「被覆作物」を植えたりすれば、土壌の健康状態を改善し、より多くの炭素を吸収する助けとなる。

教師として、写真家として、小さな自然の生涯のファンとして、わたしは食用作物と、それが気候に及ぼす脅威や解決策との間にある魅力的な関係に注目している。走査型電子顕微鏡を使って拡大した小さな世界が呼び起こす畏怖と魅惑の念が、今日の生態系の崩壊への理解と、これを元に戻す努力の一助となることを願いつつ、「思考の糧(Food for Thought)」として写真を発表している。

アルベキーナという品種のオリーブの花のつぼみを80倍に拡大した画像。レストランで人気の高い、黒くて香りのよい実を付ける品種だ。オリーブは多年生の木本植物で、長期にわたって炭素を吸収できる。国際オリーブ協会によると、オリーブオイル1リットルあたり11キロのCO2が吸収されるという。

オリーブは世界の多くの地域で主要な食品となっているが、気候の乱れは果樹園に大きな被害をもたらしている。イタリアでは500品種以上が栽培されており、同国のオリーブオイル産業は2017年には30億ユーロ(約4000億円)以上の規模があった。しかし2018年、業界は大きな打撃を受けた。異常な寒さ、暑さ、雨によって木々が弱ったところに、熱帯の侵略的な細菌がまん延した。この細菌の拡大を防ぐために、樹齢1400年のものを含む何千本もの木が伐採された。

モロッコでは、丘陵の浸食を軽減するために段々畑にオリーブを植え、点滴灌漑(かんがい)で水やりを行っているところもある。米国カリフォルニア州では、スペインの宣教師が18世紀にオリーブの木を植えたところ、これが大いに繁殖し、主にテーブルオリーブ(塩漬けやオイル漬けにした果実)が生産されるようになった。気温の上昇、天候不順、山火事の増加により、今では数十種類のオリーブ品種が北のオレゴン州で栽培されるようになりつつある。

トゲのある花粉がヒマワリの筒状花(花の内側に集まっている筒状の部分)を覆っている様子をとらえた700倍の拡大写真。近年、ヒマワリを研究する科学者たちが、この植物の遺伝子を調べる世界的なチームを結成した。その結果、ヒマワリのゲノムサイズはヒトより20%大きく、遺伝子の数も約2倍であることがわかった。これにより、非常に多様な遺伝子の組み合わせが可能となり、70種ものヒマワリの誕生につながった。

ゲノムの解析は、この植物がストレスの多い環境下でどのように育つのかを理解するのに役立つ。干ばつ、気温の上昇、高塩分、病気といったストレスに強いことで、ヒマワリは、2つの異なる品種を交配したハイブリッド種子を使う作物として、トウモロコシに次いで世界中で生産されている。

種子の収集家たちは、将来的な気候ストレスに対処するために野生種の保存に努めている。農家では土壌を改善し、水を節約し、農薬の使用を抑えるために、さまざまな被覆作物のひとつとしてヒマワリを栽培している。米カンザス州サリナにあるランドインスティテュートでは、耕起、肥料、農薬の使用量が少なくて済む多年生品種を開発中だ。

ソラマメの花の葯(やく)に花粉が数粒ついているところをとらえた3400倍の拡大写真。ソラマメは重要な被覆作物であり、合成肥料の削減に貢献する。窒素を固定する働きは、根瘤(こんりゅう)に生息するバクテリアが担っている。

デンマークの研究者らはこの植物を、地域で採れる消化のよい植物性タンパク質の供給源として推奨している。気候の寒冷な北欧諸国は、遠い国から輸入されるダイズの代用としてソラマメを活用している。一部のペットフード製造企業は、ソラマメのタンパク質を製品に加えており、海で取る魚の需要削減につながっている。

ソラマメは赤血球の酵素の異常であるG6PD欠乏症の人たちに中毒症状(重度の貧血反応)を引き起こすことがある。この問題に対処するため、ソラマメに含まれる中毒の原因物質を除去する研究が進められている。

34倍に拡大されたこの種子は、チリのアタカマ砂漠で育つ、現代のトマトの近縁野生種(Solanum sitiens)のもの。現代の食用作物はどれも、科学者が作物近縁野生種と呼ぶ数百~数千年前の植物に起源を持つ。気候が急速に変動する今日、こうした野生種は、遺伝的多様性の低い現代の作物の弱さを補うものとして、改めて重要性を増している。研究者らは、作物近縁野生種の種子を収集・保存し、干ばつや塩分などのストレス要因に対抗できるかどうかについて、その遺伝子の評価を行っている。

生産者は、洪水、干ばつ、生育時期のずれ、害虫、ミツバチなどの花粉媒介者の減少といった問題に直面する中で、うまく育ってくれる新しい品種の育成を試みている。米国のトマト専門家ブラッド・ゲイツ氏は、1990年代半ば以降、新たな品種の導入を進めてきた。よりよい品種改良と多様性の拡大が、トマトの生き残りと繁栄につながると、ゲイツ氏は言う。

ニンジンの繊細な葉先を300倍に拡大すると、いかにも堂々とした風情になる。ほかの多くの野菜同様、ニンジンもまた極端な干ばつや洪水の影響を受けている。ニンジンの種子は安定した湿り気を必要とし、断続的な乾燥によってダメージを受ける。過度の暑さは葉の成長と開花を早め、ニンジンを苦く、硬い木のような質感にしてしまう。

カリフォルニアでは、長年の干ばつによる土壌の乾燥でニンジンが被害を受け、こうした条件に耐えうる品種の開発を目的とした実験が行われている。オーストラリアの研究者は、高温下で育ったニンジンは風味と触感に劣ることを確認しており、これはニンジンの生育に適する範囲がこの先、より寒冷で湿潤なタスマニアまで南下していくことを示唆している。

気温とCO2濃度が上昇するにつれ、ニンジンの栄養価は低下すると考えられる。「作物の近縁野生種」プロジェクトは、ニンジンなどの作物を近縁野生種と交配させ、干ばつ、暑さ、塩分濃度上昇への耐性を高めることを目指している。野生の植物を利用して、より多様な遺伝子を導入することは、困難が待つ未来においても、われわれにとって欠かせない作物をより丈夫かつ栄養豊富なものに保つ助けとなるだろう。

240倍に拡大した、花粉に覆われたケールの葯。米国では、有機食品の年間売上高が500億ドルを超え、さらに増加を続けている。これは食品の売上全体の6%にあたる。かつては地味な存在だったケールの需要の高まりが、この変化を象徴している。ケールはマーケティング戦略によってスーパーフードと名付けられ、健康意識の高い人たちにとって欠かせない食品という地位まで上り詰めた。

しかし、有機農法がもたらす温暖化ガスのことを考えると、この状況は必ずしもいいことばかりとは言えない。大規模な有機農業が、従来より多くの温暖化ガスを排出している可能性を示す証拠はそろいつつある。多くの有機農場は、ディーゼルエンジンの機械を使って雑草や害虫を抑えている。また、そうした農場で育つ作物は耕作に強く依存している。

土を深く耕すと、土壌の健康や炭素吸収に必要な微生物や菌のネットワークが破壊される。多くの有機農場で使われている厩肥(きゅうひ)は、温暖化ガスであるメタンを増やす。工業型農業は、重機、化学肥料、殺菌剤、農薬、灌漑、自動収穫などを駆使して作物の収穫量を増やすことにたけている。今のケール栽培に欠けているのは、生物学的および生態学的に健康な土壌と炭素吸収能力を維持する専門的な知見だ。理想的な条件下で育てられたとき、ケールは真のスーパーフードとなるだろう。

コメの2つの葯と花粉を340倍に拡大したところ。10億人以上の人々が、稲作に経済的・文化的に依存している。米国北中西部のアニシナベ族とメノミニー族は、彼らがマヌーミンと呼ぶ野生のコメを、数百年間も持続的に収穫してきた。コメは彼らの文化の中心であり、メノミニーという名も米に由来する。

コメは重要であるがゆえに、栄養分の減少や塩害といった脅威が、各地で人道的な影響をもたらしうる。「ゴールデンライス」と呼ばれる遺伝子組み換え米は、バングラデシュとフィリピンで生産が承認されており、その高いビタミンA含有量が、子供たちの命を救うと考えられている。一方、遺伝子組み換えに反対する人たちは、ビタミンA不足を補うのに適切な植物としてサツマイモ、ニンジン、モリンガの実などを推奨している。

稲は土壌からケイ素を吸収し、それをもみ殻に沈着させて種を害虫から守る。ケイ素を含むもみ殻は、タイヤやシリコンウエハー、歯磨きペースト、電池などの産業に再利用できる。もみ殻はまた、土壌中に炭素を蓄えるのを助けるバイオ炭の生産にも使われる。しかし、一部の推測では、稲の根に繁殖するバクテリアがガスを放出するため、田んぼは世界のメタンガス排出量の17%を占めるとされる。現在、このバクテリアを除去する新しい農法を開発中だ。

800倍に拡大したこの画像に写るチアの種(チアシード)は、ミネラル、抗酸化物質、食物繊維、脂肪酸、9種類の必須アミノ酸すべてを含む擬穀類だ。マヤの人々は、3000年以上前からこれを主食として食してきた。

チアは現在、温暖化防止にも貢献できるグルテンフリーのスーパーフードとして注目されており、また貧困地域に必要な栄養源ともなっている。需要の急激な増加により、特にウガンダや東アフリカの農業地域でチアへの関心が高まっている。そうした場所では、小規模な農家や難民が、チアのおかげで従来の綿花作物の5倍の収入を得ている例もある。

チアの種を包むゼラチン状の膜は、水分保持に役立っている。研究者はこの働きの分析を進め、干ばつの脅威にさらされているほかの種に応用することを目指している。チアはまた、エジプトや中東においても、従来の農法で小麦を育てるよりもはるかに少ない水で栽培できる貴重な作物として普及が進められている。

240倍に拡大したホップの葉。表面は毛状突起に覆われている。ホップと大麦はビールの醸造に欠かせないが、人気のクラフトビールに使われているホップの品種の中には、干ばつ、高気温、異常気象の影響を受けているものもある。

米ワシントン州のヤキマバレーは、世界最大級のホップ栽培地だが、カスケード山脈の雪塊氷原や氷河の縮小により、ホップ農家が使える水が減っている。ホップは害虫やカビに弱く、天候不順によってその影響はさらに大きくなる。ホップを屋内で生産するというのも解決策のひとつだ。現在、ホップの代わりにミントやバジルの汁を加え、遺伝子編集酵母でビールを造る研究が行われている。

ヤマブシタケの白いひげを400倍に拡大すると、その複雑な構造が見えてくる。真菌類のネットワークは、健康な土壌、植物の成長に最適な環境、さらには雨を生み出すうえでも、このうえなく重要だ。菌糸は土壌でインターネットのような役割を果たし、植物に微量栄養素を運ぶ。この菌の「マット」にはお返しとして、植物の光合成によって生成された糖分が与えられる。マットは土壌をまとめ、死んだ動植物の分解を助け、空気中に何兆個もの胞子を放出し、それが雨の「種」となって雲の形成を助ける。

地球上の炭素の16%が蓄積されている北方森林帯では、樹木よりもキノコの方が多く炭素を蓄えている。さらに、一部のキノコはがんなどの病気に効果があることがわかっており、またキノコから抽出したエキスを重要な花粉媒介者であるミツバチに与えれば、彼らのコロニー崩壊の原因となるウイルス感染を予防できる。

真菌は産業界でも活用されている。廃棄物となるトウモロコシの芯や木の繊維に菌糸を混ぜ合わせれば、梱包材やプラスチック、接着剤などに使える複合材料を作ることができる。こうした製品はコルク、ゴム、プラスチック、革のように機能し、廃棄された後は土壌に栄養分を与えてくれる。

300倍に拡大すると、まるでうろこに覆われているように見えるブルーベリーの小さな種子。新たな害虫や異常気象、花粉媒介者の減少をもたらす季節のシフトが、世界中でブルーベリーに影響を与えている。

例えば、早めに発芽したところに不意の凍結が襲うと、作物が全滅してしまうこともある。1850年代、作家のヘンリー・デビッド・ソローは、米マサチューセッツ州ウォールデン池にある自宅付近のハイブッシュブルーベリーの平均的な開花時期を5月16日と記録した。2012年にボストン大学の生物学者リチャード・プライマック氏が確認したところによると、現在の平均は4月23日であり、もっとも早いデータは4月1日だった。ブルーベリーが生育する範囲は高緯度に移動しつつあり、今では野生のブルーベリーの供給源として、カナダのケベック州が、米国北部のメーン州と競い合っている。さらなる脅威として、温暖な気候で繁殖し、若い果実に害を与える侵略的なミバエの一種オウトウショウジョウバエがいる。

賢い消費者は食品がどこで採れたかに気を配るだろうが、炭素の排出に大きな影響を及ぼすのは、移動距離よりもその輸送方法だ。たとえば英国にいる人が、地元で採れたブルーベリーをひと箱購入した場合と、ほかの国から船で運ばれてきたものをひと箱購入した場合の炭素排出量はほぼ同じであり、航空機で運ばれたものの約10分の1だという。

(文・写真 ROBERT DASH、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年10月25日付]

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