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ブロードウェイ再開 感動呼んだトニー賞(井上芳雄)

第101回

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。新型コロナウイルスの感染拡大で劇場の閉鎖が続いていたニューヨークのブロードウェイが1年半ぶりに再開しました。オープンした劇場ではそれぞれ演者やお客さまがものすごい盛り上がりで、本当によかったと思いました。9月26日(現地時間)には2年ぶりとなるトニー賞の第74回授賞式が開催されて、感動を呼ぶパフォーマンスの数々が繰り広げられ、ブロードウェイ復活を高らかにうたいあげました。

ブロードウェイでは昨年3月にすべての劇場が閉鎖され、ほとんどのミュージカルは1年半にわたって休演が続いていました。9月初めからようやく劇場の再開が始まり、大きな作品では『ウェイトレス』と『ハデスタウン』が最初にオープンして、その後、日本でも知られている『ライオンキング』『ウィキッド』『シカゴ』や、米国建国の父の1人の生涯を描いた人気ミュージカル『ハミルトン』などが幕を開けました。さらに10月にかけて主要な劇場で順次公演が再開される予定です。

1年半ぶりとあって、僕たちもどきどきしながら初日を待っていたのですが、それぞれの作品の動画を見たら、メインのキャストが出てくると、お客さまがみんな立ち上がってしばらく拍手が鳴りやみません。この日を待っていた人たちの思いが伝わってきました。日本は数カ月の劇場閉鎖で済みましたが、それでもみんないろんな思いをしてきたので、再開の映像を見ると、気持ちがすごく分かって、胸がじわりと熱くなりました。

ただ同時に、戻ってこられなかった作品もあります。『ミーン・ガールズ』という若者向けの学園ものミュージカルは休演中に再開しないことが決まったし、『アナと雪の女王』もそう。日本でも昨年、公演中止が相次ぎましたが、やっていて悲しいのは、あれが最後だった、と分からずに終わってしまうこと。演劇は1回1回重ねていくものなので、千秋楽(公演最終日)にはみんなでお祝いするように、初日が開いて千秋楽を迎えるという区切りを大事にしています。それが突然、公演が終わってしまうのは無念だし、ブロードウェイのようにロングランされる作品なら、仕事が安泰だと思っていた人たちが、急に失業することにもなったでしょう。同業者の目で見ると、経済的な影響も気になります。

そういうなかで9月26日(現地時間)には2年ぶりとなるトニー賞の第74回授賞式が催されました。トニー賞は米演劇界で最高の栄誉とされる賞。その授賞式は米演劇界最大の祭典で、ブロードウェイでどんな新作が出てきて、どういうトレンドや新しい才能が現れているかが分かる機会とあって、毎年楽しみにしていたので、昨年開催が延期となったのはショックでした。今年は開催されてうれしかったですね。今年は例年と違って2部構成。第1部では主要3部門(ミュージカル作品賞、演劇作品賞、演劇リバイバル作品賞)を除く受賞者を発表。メインとなる第2部は主要3部門の発表と、いろんな作品のキャストやゲストスターがパフォーマンスを披露するライブ・コンサートの形式でした。

注目の作品賞を受賞したのは、ミュージカル部門は『ムーラン・ルージュ』。2001年に公開された映画を基にした作品で、ほかにもアーロン・トヴェイトが主演男優賞を受賞するなど10部門で受賞しました。演劇部門は『ザ・インヘリタンス』。ニューヨークに生きる3世代のゲイのカップルを描く群像劇です。コロナ感染拡大前に開演した作品が対象なので、ミュージカル作品賞のノミネートは3作品と例年より少ないし、3作品とも既存の曲を使ったミュージカル。ミュージカルリバイバル作品賞のように候補作がない賞もありました。なので例年のようなアワードとしての側面よりも、ブロードウェイ復活をみんなでお祝いするイベントという意味合いが強かったように思います。

日本でも第2部が『生中継!第74回トニー賞授賞式』と題してWOWOWで放送されました。僕はナビゲーターとして、大阪のサテライトスタジオからスペシャル・プレゼンターの堂本光一君と一緒に参加しました。オープニングでは、司会のレスリー・オドム・ジュニアがダンサーを引き連れて、歌いながら屋外から会場のウィンター・ガーデン劇場に入ってくると、観客に大きな拍手で迎えられます。そのまま舞台へ上がると、再開した作品のキャラクターが次々と登場。ブロードウェイが復活したことを実感して、感動しました。ノミネート作などからのパフォーマンスの数々も、エネルギーに満ちていて素晴らしかった。来年のトニー賞に向けた新作の開幕も始まるそうで、今後にも期待が膨らみました。

課題はどうやってロングランを続けていくか

ブロードウェイの再開はうれしくて感動的ですが、現地の演劇ジャーナリストの方によると、先の課題もあるようです。どうやってロングランを続けていくか。コロナ禍までのブロードウェイは、世界中からやって来る観光客に支えられ、毎年観客動員数を更新し続け、どんどん規模が大きくなるという印象でした。ところがコロナ禍で観光客が来られなくなって大打撃を受け、劇場も閉鎖されました。今回再開したといっても、すぐには観光客が戻ってこないだろうし、実際チケットも以前ほど売れていないそうです。今はニューヨーク近郊の演劇ファンに支えられていると思うのですが、逆に言うと、これまでいかに観光客に頼っていたかという実態が、コロナ禍で浮き彫りになりました。

僕にしても、今までは大ヒットすればいつまででもロングランできるブロードウェイの環境にあこがれていたし、それがブロードウェイのエネルギーの源であることをうらやましくも思っていました。でも、諸(もろ)刃の剣というか、いざ観光客が来られなくなったら、そのシステムが弱点でもあったというのは発見でした。そんな事態が起こるなんて、考えてもみなかったですから。日本の劇場システムとの違いも、あらためて考えました。僕たちが公演を続けてこられたのは、東京を中心としたそれぞれの地方ごとのお客さまに支えられてきたからで、そこで成立する環境があったから。ブロードウェイは世界中からお客さまが来られなくなったと分かった時点で劇場を閉めたので、その違いを感じました。

そういう背景もあり、再開にあたってはブロードウェイの全体が協力して復活をアピールしています。タイムズスクエアに仮設ステージを作って、誰でも見られるようなところで、それぞれの作品がパフォーマンスを見せたり、街角に小さいピアノを置いて、有名な作曲家が弾いていたり、いろんな工夫をしています。その最大のイベントが、先日のトニー賞授賞式だったと思います。

ブロードウェイ再開の影響が日本のミュージカル界に出てくるとしたら、これからでしょう。実は今、僕たちがやっている作品は2年から3年前に企画がスタートしているので、コロナ禍が始まる前のもの。コロナ禍以降に決まった企画が、本格的に劇場にかかるのは来年くらいからだと思います。この1年半はブロードウェイで新作がなかったので、その穴埋めをどうするか。僕たちもステイホーム中に言っていましたが、やはり海外からの新作の供給に頼り切っていた面があったので、これを機に過去の名作を含めて日本のオリジナルミュージカルに目を向けたり、日本のクリエイターで新作を作ろうという動きが加速したりするかもしれないですね。

それにしても、ブロードウェイの1年半にわたる劇場閉鎖と今回の再開を見て思うのは、ブロードウェイの人たちの気質や潔さです。日本は公演を続けられたのですが、続けるための苦労もたくさんあって、いつ公演が止まるか分からないという不安やリスクをずっと味わってきました。一方、ブロードウェイは潔かったと思うんです。いろんな事情があったにせよ、すぱっとやめて、じっと耐えて再開のときに備えて、ようやく再開できたときにエネルギーを爆発させる。その選択はブロードウェイらしくて、潔いと感じました。

ブロードウェイに行って、スタッフさんや役者さんと話すと、やるときはやるという印象を受けます。おおらかだし、アバウトなところもある国民性なので、大丈夫なのかなと思うこともあるのですが、自分たちの専門のことや役割に関してはものすごいエネルギーを注ぐ。それが自分たちの選んだ生き方ということなのでしょう。彼らは「人生が一番大切」とよく言います。もちろん人生を懸けて舞台をやっているのだけど、何が何でも舞台を開けるというよりは、自分たちの人生をまず大事にして、今はこういう時期だから我慢しよう、その代わり、やれるときは思い切りやろう。そんなブロードウェイの人たちの心意気を感じたし、それがミュージカルという表現形態にも合っているのだと思います。

『愛した日々に悔いはない』を地で行った1年半

もともとブロードウェイの俳優は不安定な職業です。オーディションで勝って仕事を得られれば、しばらくは食いつないでいけるけど、そのショーもいつクローズするか分からないし、次の仕事がすぐ決まるかどうかも分からない。でも自分たちはこの仕事が本当に好きだから、愛情を持ってやっているというのが誇りです。ミュージカル『コーラスライン』に『愛した日々に悔いはない』という曲があります。いつけがをするかもしれないし、いつ仕事を失うかもしれないけど、舞台を愛してやってきた自分の生き方に後悔はないという、ブロードウェイのテーマソングみたいな歌です。それを地で行った1年半だったと思います。

ブロードウェイの劇場が開いていない世界は、ミュージカルをやっている自分たちにとっては大元がなくなったみたいで、ぽっかり穴があいたような気分でした。再開したからといって、すぐに元の世界に戻るわけではないでしょうが、まずは復活を心からお祝いしたいし、さらにパワーアップしたブロードウェイが帰ってくることを楽しみにしています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第102回は10月16日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

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