注目の作品賞を受賞したのは、ミュージカル部門は『ムーラン・ルージュ』。2001年に公開された映画を基にした作品で、ほかにもアーロン・トヴェイトが主演男優賞を受賞するなど10部門で受賞しました。演劇部門は『ザ・インヘリタンス』。ニューヨークに生きる3世代のゲイのカップルを描く群像劇です。コロナ感染拡大前に開演した作品が対象なので、ミュージカル作品賞のノミネートは3作品と例年より少ないし、3作品とも既存の曲を使ったミュージカル。ミュージカルリバイバル作品賞のように候補作がない賞もありました。なので例年のようなアワードとしての側面よりも、ブロードウェイ復活をみんなでお祝いするイベントという意味合いが強かったように思います。

日本でも第2部が『生中継!第74回トニー賞授賞式』と題してWOWOWで放送されました。僕はナビゲーターとして、大阪のサテライトスタジオからスペシャル・プレゼンターの堂本光一君と一緒に参加しました。オープニングでは、司会のレスリー・オドム・ジュニアがダンサーを引き連れて、歌いながら屋外から会場のウィンター・ガーデン劇場に入ってくると、観客に大きな拍手で迎えられます。そのまま舞台へ上がると、再開した作品のキャラクターが次々と登場。ブロードウェイが復活したことを実感して、感動しました。ノミネート作などからのパフォーマンスの数々も、エネルギーに満ちていて素晴らしかった。来年のトニー賞に向けた新作の開幕も始まるそうで、今後にも期待が膨らみました。

課題はどうやってロングランを続けていくか

ブロードウェイの再開はうれしくて感動的ですが、現地の演劇ジャーナリストの方によると、先の課題もあるようです。どうやってロングランを続けていくか。コロナ禍までのブロードウェイは、世界中からやって来る観光客に支えられ、毎年観客動員数を更新し続け、どんどん規模が大きくなるという印象でした。ところがコロナ禍で観光客が来られなくなって大打撃を受け、劇場も閉鎖されました。今回再開したといっても、すぐには観光客が戻ってこないだろうし、実際チケットも以前ほど売れていないそうです。今はニューヨーク近郊の演劇ファンに支えられていると思うのですが、逆に言うと、これまでいかに観光客に頼っていたかという実態が、コロナ禍で浮き彫りになりました。

僕にしても、今までは大ヒットすればいつまででもロングランできるブロードウェイの環境にあこがれていたし、それがブロードウェイのエネルギーの源であることをうらやましくも思っていました。でも、諸(もろ)刃の剣というか、いざ観光客が来られなくなったら、そのシステムが弱点でもあったというのは発見でした。そんな事態が起こるなんて、考えてもみなかったですから。日本の劇場システムとの違いも、あらためて考えました。僕たちが公演を続けてこられたのは、東京を中心としたそれぞれの地方ごとのお客さまに支えられてきたからで、そこで成立する環境があったから。ブロードウェイは世界中からお客さまが来られなくなったと分かった時点で劇場を閉めたので、その違いを感じました。

そういう背景もあり、再開にあたってはブロードウェイの全体が協力して復活をアピールしています。タイムズスクエアに仮設ステージを作って、誰でも見られるようなところで、それぞれの作品がパフォーマンスを見せたり、街角に小さいピアノを置いて、有名な作曲家が弾いていたり、いろんな工夫をしています。その最大のイベントが、先日のトニー賞授賞式だったと思います。

ブロードウェイ再開の影響が日本のミュージカル界に出てくるとしたら、これからでしょう。実は今、僕たちがやっている作品は2年から3年前に企画がスタートしているので、コロナ禍が始まる前のもの。コロナ禍以降に決まった企画が、本格的に劇場にかかるのは来年くらいからだと思います。この1年半はブロードウェイで新作がなかったので、その穴埋めをどうするか。僕たちもステイホーム中に言っていましたが、やはり海外からの新作の供給に頼り切っていた面があったので、これを機に過去の名作を含めて日本のオリジナルミュージカルに目を向けたり、日本のクリエイターで新作を作ろうという動きが加速したりするかもしれないですね。

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『愛した日々に悔いはない』を地で行った1年半
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