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メンタルケア新手法 オープンダイアローグが効くワケ

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

前回記事(「メンタルケアの新手法『オープンダイアローグ』って?」)では、もともと統合失調症患者の治療的介入の手法として登場し、今、日本の精神医療の現場で注目を集める「オープンダイアローグ」が生まれた背景や実践の方法などを紹介した。精神科医の斎藤環さんは、話をひたすら聞いていくという方法だけで、重症の精神疾患と診断された患者までもが緩和されていく状況を、臨床で何度も経験している。今回は、なぜオープンダイアローグが統合失調症に有効なのかや、日本での実践事例、誰でもケアを受けることが可能なのかどうかなどについて伺っていく。

尊厳をもって接してもらうことで、強い感情が緩和される

――オープンダイアローグはもともと統合失調症患者の治療的介入の手法として生まれたとのことですが、統合失調症に効果があるのは、なぜでしょうか。

斎藤さん 第1回で紹介した、「夫が浮気をして離婚を切り出される」という妄想を抱くようになった女性のケースでは、オープンダイアローグのセッションを10回ほど行ったら、夫婦で「離婚はないよね」という話ができるまでに改善しました。対話で人はこんなにも変わるのだと、私も非常に驚いた事例です。重症とされる慢性統合失調症でも、薬を使わず、対話実践だけで良くなることが多い。他にこのような心理療法は私が知る限りありません。

私なりに分析してみると、統合失調症の方は、今まで妄想や幻聴について話しても、誰も聞いてくれなかったという経験が多かったのだと思います。オープンダイアローグの手法を使って私たちがしてきたことは「なぜそう思うのですか?」ではなく、「それってどういう経験なのですか?」「どういう気持ちなのですか?」と、ひたすら尋ね続けることでした。

オープンダイアローグのミーティングの様子(イメージ)

詰め寄ったり、否定したりせずに話を聞いて、相手に興味を持って「話を聞かせてほしい」と伝える。これは相手に対する最大の肯定になります。患者さんにとっては、しばしば未曽有の経験なんですね。

また、妄想の背景にあるのは、怒りや悲しみなどの強い「感情」であることが多い。1対1で診察するのではなく、複数の専門家がいて、オープンに意見を交換し合う空間では、多様な意見があっていいという安心・安全が保証されます。その上で、尊厳をもって扱ってもらえ、話を十分に聞いてもらうことで、強い感情が緩和されていく。その結果、妄想も緩和されていくということなのでしょう。この"尊厳感"は非常に重要です。

――診察の現場で話を十分に聞いてもらえるという経験は、確かに普段あまりないことですね。

斎藤さん これまで精神医療の場では、時には強引に説得したり、不安をあおって従わせたりということをしてきました。そこに、患者さんが安心して話せる余地はありません。

オープンダイアローグでは、相手を変えようとしません。変えようとしないからこそ、変化が起こる。この逆説こそがオープンダイアローグの根幹をなす考え方の一つです。治療の成果は、あくまでも副産物なのです。

オープンダイアローグを受けてみたい方へ

――日本では、オープンダイアローグはどのように取り入れられているのでしょうか。

斎藤さん オープンダイアローグは、もともとは統合失調症のケアの技法ですが、日本では主に精神科においてうつ病、摂食障害、依存症などにも試験的に取り入れられています。私自身は、専門であるひきこもりなどの社会的孤立状態の治療・支援にも応用可能だと考えており、実際に取り入れています。

前回、『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』に掲載したエピソードの1つを紹介しましたね。従来の医療のやり方だと強制入院が必要となるような統合失調症の重症患者で、支離滅裂な話をしていた人でも、オープンダイアローグを繰り返し行うことによって、普通に会話をできるようになることは珍しくなく、私自身、そういった事例をすでにいくつか経験しています。また、ひきこもり事例への対応でも、非常にうまくいっています。患者さん本人だけでなく、家族にも参加してもらうので、親子の関係も良くなりますね。

――どうしたらオープンダイアローグを受けることができますか。

斎藤さん 私の場合、以前はアウトリーチ(訪問)で行っていたこともありましたが、現在は大学病院の外来と外勤先のクリニックで行っています。ただ、ご要望が多く予約を何カ月も待っていただく必要があります。また、保険診療は適用されないので自費になります。医療機関によって異なりますが、1時間で1万円から2万円程度かかります。

日本においては、まだ慎重に事例を選んで試験的に行っている医療機関がほとんど。ですので、とても心苦しいのですが現状は導入していそうなところに個別に問い合わせていただく形になります。実施に資格は不要なので、もちろんご自身でやってもいいわけです。ODNJP(オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン)のガイドラインなどを参考にすれば決して不可能ではありません。

――オープンダイアローグは、どれくらいの期間行うと、症状が緩和してくるのでしょうか。

斎藤さん オープンダイアローグ発祥の地であるフィンランドのケロプダス病院では、症状が良くなるまで毎日行うとしています。ですが、日本ではそれは制度的に難しいので、私の診療では1セッションを60分として、頻度は月に1回、または2回程度行っています。10回のセッションを1クールとしており、患者チームと専門スタッフはすべてのセッションを、できるだけ同じメンバーで行います。10回終了すると、ほぼすべての方に症状の改善が見られています。

精神科では、通院歴が長い人で8年ぐらい、統合失調症の場合には薬物療法で何十年も通う例は少なくありません。それに比べるとオープンダイアローグははるかに効率の良い優れた療法だと思います。

――例えば、薬物療法をせずにオープンダイアローグだけでも治療は可能なのですか。

斎藤さん もちろん可能です。フィンランドでもオープンダイアローグを実施することで、半数近い患者が服薬することなしに回復しているというデータがあります。ただ現状は、保険診療で実施できないという制約があり、患者さんも薬をやめてしまうと症状が悪化するのではないかと不安を持たれる方もいらっしゃるので、薬を併用する事例のほうが多いです。両方をやりながら薬をだんだんに減らしていくという流れです。

治療ではなくケア、だからこそ誰にでも効果が期待できる

――薬を使わずに症状の改善が期待できる療法なのに、発祥の地、フィンランドではトルニオという小都市だけで行われているそうですね。精神科医療の中で、広まっていかないのは、なぜなのでしょうか。

斎藤さん フィンランドに限らず全世界的に、「精神疾患は薬物で治療する」という風潮がまだまだ強いのだと思います。精神科というのはそれだけ保守的だということです。通常の医療では、診断があって初めて治療法を選択するという段階を踏むので、多くの医師が、まず「正しい診断ありき」という考えにとらわれてしまっています。

しかし、精神科の患者の中には、薬物治療をし、場合により入院もし、それでも症状が良くならずに何十年も通院している人が多くいます。精神医学は最近まで、疾患の原因は脳にあり、薬で治療するという内科的モデルで捉えられてきましたが、これには限界が見えていると思います。

一方、オープンダイアローグは、10回の対話実践で、先ほども話した通りほぼすべてのケースで効果を上げています。患者と対話を重ね、信頼関係を築くだけで、人を癒やし回復に導けるのです。治療にかかるエネルギーやコスト、時間を考えると、薬を何十年も飲み続けてもらうよりも、オープンダイアローグのほうがはるかに近道であるように思います。オープンダイアローグは治療というよりはケアなので、おそらくどんな方にも有効です。治療の前に「きちんとしたケアをする」ことがいかに重要か。むしろ、薬や一般的な精神療法だけで同じような効果を得ようとしても、簡単にはいかないでしょう。

――日本で今後、精神科の医療の一つとして保険適用になる可能性はあるでしょうか。

斎藤さん 日本では、幸い精神科を含む多くの医療関係者がオープンダイアローグに強い関心を寄せてくれています。専門書はよく読まれていますし、私と水谷緑さんの漫画(『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』)もロングセラーになっています。

精神科領域では、「認知療法・認知行動療法」が2010年4月から診療報酬の対象となり、保険が効くようになりました。オープンダイアローグも、長期戦にはなるかもしれませんが、保険適用になることを期待したいですね。日本にも定着させたい。そのためにも、オープンダイアローグの手法を確立し、そこに携わる人材の育成なども進めていくつもりです。

――オープンダイアローグのような対話実践をやってみたいという方に、何か良い方法はありませんか?

斎藤さん 対話実践は誰にでもできますから、まずは身近な人とやってみてほしいと思います。オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパンが作成した「対話実践のガイドライン」[注1]がありますので、こちらに目を通されることをお勧めします。

[注1]オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパンのホームページ(https://www.opendialogue.jp/) の「対話実践のガイドライン」からダウンロードできる。

(第3回に続く)

(ライター 及川夕子)

[日経Gooday2021年10月7日付記事を再構成]

斎藤環さん
精神科医、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。1961年生まれ。筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、「ひきこもり」の治療、支援ならびに啓発活動。オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)共同代表。主な著書に『改訂版 社会的ひきこもり』(PHP 新書)、『オープンダイアローグとは何か』(著訳、医学書院)、『開かれた対話と未来』(監訳、医学書院)、『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院)ほか多数。

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