検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

お芝居が大好きで団結 すてきな仲間たち(井上芳雄)

第112回

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。4月はシス・カンパニー公演『奇蹟 miracle one-way ticket』の舞台が10日まで東京・世田谷パブリックシアターで、13~17日には大阪・森ノ宮ピロティホールで上演されます。記憶をなくした名探偵と、その親友のコンビが事件を解決するミステリーですが、その謎には哲学から宗教、伝説、実際の事件、時事問題といろんな要素がからみあってくる一筋縄ではいかないお話。6人の出演者はみんなお芝居が大好きという気持ちで団結しているカンパニーで、すてきな仲間たちです。

僕の役は、警視庁などのコンサルタントも務める私立探偵・法水連太郎(のりみず・れんたろう)。法水の高校時代からの親友で、現役の医師である楯鉾寸心(たてほこ・すんしん)を鈴木浩介さんが演じています。2人はお互いをホームズ、ワトソンと呼び合う仲の名コンビです。探偵は何かの依頼で、山奥の"迷いの森"に呼び出され、そこで何者かによって傷を負います。法水を探しに森に入った楯鉾は彼を見つけるものの、法水は記憶をなくしていて、誰に呼び出されたのか覚えていません。そこに探偵を助けた女性・マリモが現れ、彼女の祖父である竿頭寛斎(かんとう・かんさい)が依頼主らしいと分かるのですが、その寛斎も行方知れず。そのうち探偵は記憶を少しずつ取り戻し、キリスト教の奇蹟に関連した出来事が謎を解く鍵として浮かび上がってくる……という話です。

劇作家の北村想さんが書かれた新作オリジナル戯曲で、探偵ものではありますが、宗教や科学や哲学といったいろんな要素が取り込まれています。北村さんが「謎解きなんて、きっとお客さんには最後はどうでもよくなっていますよ」と言っていたように、謎を解くことが目的ではなく、お客さまそれぞれの知識や興味に合わせて楽しんでもらえる話なのですが、実際どんなふうに受け止められるのか、稽古中は想像がつきませんでした。

なので公演初日に幕が開き、劇場が大きな笑い声や拍手に包まれて、予想を上回る大きな反応をいただいたときは、びっくりもしたし、思った以上に楽しんでくださっていることがすごくうれしかったです。こんな感じで受け取ってもらえるのかというのが分かり、そういう意味で、いい初日でした。演劇のお客さまはすごいな、理解力があるな、ともあらためて思いました。これ伝わるのかな、と思うような複雑だったり難解だったりすることでもキャッチしてくれるし、しかも分かることがすべてじゃないというか、それぞれの楽しみ方で物語を味わってくれているのが伝わってきました。お客さまの前でお芝居をする方が断然楽しいし、やりがいもある。本当にお客さまって最高だと思いました。

舞台上では最初に、浩介さんが演じる楯鉾が語り部として出てきて、客席に向かって話しかけます。第一声で自分の名前を言うのですが、そこでもう笑いが起こりました。「すごいな、まだ名前を言っただけなのに……」と舞台上でベッドに寝ていた僕も、思わず笑ってしまいそうになりました。冒頭から手応えがありました。

僕が歌う場面の反応も、思った以上でした。法水は記憶をなくしているのですが、急に何か歌いたくなって、実は自分は歌うのが好きなんじゃないか、といううっすらした記憶とともに歌い始めます。僕自身がミュージカル俳優で歌手であることのセルフパロディーになっているので、お客さまは笑ってくれたし、きっと歌は歌として聴いてくれたのではないでしょうか。そんな演劇ならではの面白いシチュエーションも楽しめるお芝居です。

初日には北村さんも観劇されていました。稽古中はZoomの画面越しだったので、ご本人とお会いしたのは初めて。ひょうひょうとしている方で、見終わったあと、うれしそうに「僕たちぐらいの年代の者からすると、とても懐かしい感じがします」と言われました。おそらく探偵の世界にノスタルジックな思いを抱かれたようです。自分が書いたものなのに自分が書いたのではないみたいな感想で、作品が自分の手から離れたことを噛みしめているような感じでした。北村さんの作品には初めて出させていただきました。演劇界を代表する劇作家の新作に携われたのは、とてもありがたいことで、得がたい経験です。

今回、僕の新型コロナウイルス感染で初日が1週間ほど延びて、いろんな方にご心配やご迷惑をおかけしました。体調はすっかり元に戻りました。舞台稽古の最初のころは体力が落ちていたり、声が通りづらい気もしましたが、だんだん戻ってきて、初日には万全でした。まだ分からないことも多いウイルスなので、お客さまの前に出るまでは不安やプレッシャーもあったのですが、幕が開いてからは全然問題はありません。初めて自分の体調のことで公演が中止となり、初日が延びてご迷惑をかけるという経験をしたので、その重みを含めて、毎日を大事に過ごしたいと思っています。

長セリフを限られた時間でスピーディーによどみなく

探偵役は、セリフの量が膨大で、話す内容も難しいので、そこが大変だし、やりがいがあるところです。法水は知識をひけらかす癖がある人で、事典に書いてあるようなことをがーっと一気に言い始めることも多いので、長セリフを限られた時間でスピーディーによどみなく言うことへの緊張感が毎回あります。楯鉾役の浩介さんとの会話が多いので、2人のコンビネーションやテンポ感にも気をつかいます。最初のころは、長くしゃべっているうちに酸欠気味になったりもしました。慣れてきた今は、顔の頬の筋肉が痛くなります。上演時間は約2時間とそれほど長くはないのですが、セリフの密度がすごく濃いのが今回の役の特徴です。気持ちが乗ってくると、何も考えずにわーっとしゃべれるときもあって、そうなるとセリフを言う快感に浸っています。普段なかなかできない経験です。

バディーものなので、ホームズ(法水)とワトソン(楯鉾)の関係性も見どころ。法水は記憶喪失なので、最初は楯鉾のことを忘れているのですが、記憶をなくす前と同じように接してもらっているうちに、だんだん楯鉾のことを思い出してきて、遠慮がなくなっていく感じとかも、演じていて楽しいところです。

楯鉾役の浩介さんとは、一昨年の舞台『桜の園』の稽古でご一緒していたのですが、公演が中止になったので、舞台上での共演は初めてです。劇中では同級生という設定ですが、実際は同じ福岡の高校の先輩にあたります。高校や福岡の話をよく一緒にするので、舞台を降りたら同郷の先輩と感じることのほうが多く、特別な存在です。俳優としても素晴らしいキャリアの先輩で、お芝居に対する誠実な姿勢に学ぶところが多いと感じました。

浩介さんは、稽古初日にはセリフを全部頭に入れています。「いろんなやり方をしてきたけど、これが自分には一番合っているし、役も深められるんだ」と言われていて、はたから見ていても確かにそうだなと。僕はぎりぎりにしか覚えられないタイプで、稽古中は「明日のセリフを覚えなきゃ」とひいひい言っているのですが、浩介さんはさらに深めていったり、言いづらい箇所を言えるようにしたりという先の作業をしていました。やっぱり浩介さんのやり方の方がいいのかな、と思ったりしました。

同時に、浩介さんは「自分は本番に入ったら、とんでもない間違いをしたりするんだよ」と、舞台が好きだからこそのおびえのようなことも言っていました。実際にハプニングがあったりもしたので、面白いなと。繊細にして大胆というバランスが魅力的な人です。

ほかの共演者もみんな、お芝居が大好きな役者ばかり。コロナ禍じゃなければ、毎晩でも飲みに行って、ずっと芝居の話をしていただろうというメンバーです。

井上小百合さんは、迷いの森で探偵を助けるマリモの役。共演は初めてです。乃木坂46の一期生メンバーでアイドルだったのですが、お芝居が大好きで、役者をやりたくて頑張ってきたそうです。見た目はたおやかですけど、本当に舞台をやりたいという気持ちが前に出ているところが根性があるなと思って、ギャップに驚きました。度胸があって、舞台で何が起こっても動じないところがあります。肝が据わっているのが、頼もしいです。

岩男海史君は、バチカンから日本に派遣された調査員・椋鳥之介(むく・とりのすけ)の役。昨年の舞台『日本人のへそ』で共演しました。そのときもですが、役のことを考え抜いて演技プランを立てているので、お芝居が大好きな気持ちが伝わってきます。衣装デザイナーでもあって、最近自分のブランドを立ち上げたそうです。多面的な才能の持ち主です。僕が療養中の稽古では代役をやってくれて、ありがたかったです。感謝しています。

瀧内公美さんは、キリスト教信者の海部(あま)もぐるの役。共演は初めてです。オープンマインドな人で、きさくにみんなに声をかけます。稽古中でも「今の場面、どう見えました?」とか「伝わりますかね、私のやっていること」と、僕にも聞いてきます。僕はダメ出しされたら嫌だから人に感想を聞けないタイプなので、共演者にも臆せず聞けるのはすごいなと。コミュニケーション能力が高くて、表現に貪欲なすてきな女優さんです。

大ベテラン大谷亮介さんの役者根性に学ぶべきこと

大谷亮介さんは、行方不明の竿頭寛斎と、教会の牧師である内藤ユウランの2役を演じています。共演は初めてですが、共通の知り合いがいたりするので勝手に親近感を持たせてもらっていました。普段はとても明るくて、日本人離れしたエネルギッシュな人です。大谷さんも役者根性がすごい。顔合わせのときから「自分はもう役になってきているから」と言われていて、牧師の役なのでキリスト教についてもすごく調べてきていました。分からないところが多い話なので、それについても後輩である僕たちと一緒にずっと「ここはどうなんだろうね」と探求しているような人です。大ベテランながら、今もずっと舞台に立ち続けているし、長いセリフも練習を重ねてしっかり覚えています。学ぶべきことが多いです。

みんな芝居が大好きで、その気持ちで団結しているカンパニーです。僕が療養中だったときも、明るく支えて待ってくれた、すてきな仲間たち。ミュージカルのカンパニーだと、もちろんみんな芝居は好きでしょうが、歌が好きな人もいれば、踊りに特化した人も、僕みたいにもともとミュージカルが好きな人も、よく知らなくてこの世界に入ってきた人もいて、いろんな人がいます。でもストレートプレイ(セリフだけの演劇)では、基本的にやることはお芝居だけだから、そこへの思いがみんなすごく強くて、気持ちがひとつになっているように感じます。この仲間たちと、残りの公演も全力で駆け抜けます。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第113回は4月16日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_