
NPOカナダ・クジラ協会の事務局長セバスチャン・テウニッセン氏は「ほとんどのホエールウォッチング業者はクジラを保護する必要性を認識し、規則を尊重しています」と話す。事実、セイリッシュ海のクジラに関する20年の調査では、営業を目的としないレクリエーショナルボートを使っている人の72%がホエールウォッチングのルールを認識していなかったことが判明している。
20年に発生したクジラの「事件」365件は、大部分が速度違反と距離違反で、観光船が関係したものはわずか8%だった。
法律と人々の意識が変わったとはいえ、「クジラの死傷の原因は人間との関わりにあることは依然変わららない」とテウニッセン氏は警鐘を鳴らす。有名な事例がカナダ南部にすみついたルナ(L98)というシャチだ。人慣れしていたルナはブリティッシュ・コロンビア州ヌートカ湾で人とボートを探していたことで知られ、06年、ボートのプロペラに近づきすぎて命を落としたのだ。
カナダ・クジラ協会は懸念事項として、船の接近をクジラにわかりやすくすること、クジラがロープや漁具に絡まらないようにすること、気候変動の影響を抑制することを挙げている。
脅威への対応
クジラの個体数の減少と、クジラにとっての脅威が増えている状況を問題視したカナダ政府はクジラ目を保護するための規則を強化した。
規則が改正される前、セイリッシュ海にすみついたシャチを発見したゴムボートの船長は群れに突進してからエンジンを切っていた。多くの場合、シャチの群れはホエールウォッチャーに向かって泳ぎ続ける。ザトウクジラの世界最大の個体群が夏の餌場にしているニューファンドランド・ラブラドール州では、ザトウクジラとのシュノーケリングが人気だった。
新規則が施行される前から、カナダのホエールウォッチングボートはクジラを傷つけないよう細心の注意を払うようにしていた。それでも、乗船者に写真撮影の機会をつくるため、クジラに近付くボートもあった。現在は、遠ざかることが安全でないなどやむを得ない状況を除いて、クジラに接近することは認められていない。
海洋哺乳類の行動を「妨害する」こともカナダでは違法になった。一緒に泳いだり、交流したりすることも妨害行為にあたる。クジラが近くにいるときは必ず、すべての船舶操縦者が速度、騒音、漁業を控えなければならない。
18年の時点で、ボートはほとんどのクジラから100メートル離れなければならないと定められていた。ブリティッシュ・コロンビア州南部のシャチ(とケベック州のシロイルカ)に関しては、18年のうちに距離が倍増し、400メートルになった。カナダ政府のインフォグラフィックには、「尾やひれ、水しぶきが見えたら、十分な距離を取りましょう」と書かれている。
