2021/10/15
ホエールウォッチングボートを追い掛ける好奇心旺盛なシロイルカ。マニトバ州を流れるチャーチル川の河口で撮影(PHOTOGRAPH BY CINDY HOPKINS, ALAMY)

ただ単純にクジラから離れれば済むわけでもなさそうだ。「南部にすみついたシャチは私たちを必要としています」とエリン・グレス氏は話す。「彼らを見ることができなければ、彼らを守ることはできません」(グレス氏)。グレス氏はブリティッシュ・コロンビア州とワシントン州のホエールウォッチング業者を代表する太平洋ホエールウォッチ協会の事務局長で、29社合わせて毎年50万人にサービスを提供している。

グレス氏によれば、ホエールウォッチング業者は科学者にクジラの位置や健康状態を伝えることができる。ホエールウォッチングボートの存在は、一般の船舶に近くにクジラがいることを視覚的に伝えることにもなるので、結果としてクジラたちに貢献しているという。

規制がホエールウォッチングに与える影響

観光は野生生物と生息地の保全、保護に一役買っている。ハドソン湾でホエールウォッチング会社チャーチヒル・ワイルドを営むマイク・ライマー氏は「私たちは世界の目と耳であり、クジラが嫌がらせや虐待を受けている現場で、観察結果を共有し、警鐘を鳴らす役割を担っています」と説明する。

実際、ホエールウォッチング業者は海洋生物の保護に対する人々の意識と関心を高めようとしている。バンクーバー島にあるトフィーノ・リゾート+マリーナのベル・マッカーシー氏は、船長たちは「お客様と野生生物の相互尊重を育むため」、互いの距離をこれまでの2倍にすることを目指していると話す。

マニトバ州チャーチルやニューファンドランド・ラブラドール州など、旅行者が比較的少ない地域では、規制強化に関して政府との対話を望む声も強い。

ニューファンドランド島にあるギャザーオールズ・パフィン&ホエールウォッチのマイク・ギャザーオール氏はその目的として、「クジラを保護しながら、経験豊富な専門のホエールウォッチングツアーによる教育と啓発を継続」できるよう、規則の運用上の調整が行われるべきだと説明している。

ハドソン湾に暮らすシロイルカが5万5000頭超であることを考慮し、チャーチヒル・シロイルカ・ツアー会社協会は距離規則の免除と政府、業界による協調的なルール策定を望んでいる。ライマー氏によれば、大多数のシロイルカは生涯を通じて、「ボートを見ることも、人と関わり合うこともありません」

距離規則を決める際は、種と海岸からの距離だけでなく、クジラに赤ん坊がいるかどうかやボートの交通量も考慮に入れるべきだとギャザーオール氏は考える。「より厳しい規則が必要な場合もあれば」、現在の規則では負担が大きい場合もある。

希望の兆しもある。カナダの保護策がどれくらいクジラの助けになっているかを測るのは難しいが、明るい兆しが見え始めている。南部にすむシャチの赤ん坊がこの1年間で3頭確認されたのだ。しかも、そのうち2頭はメスで、個体数が増えることが期待されている。

ハドソン湾を泳ぐシロイルカ(PHOTOGRAPH BY KIKE CALVO, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

(文 JOHANNA READ、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年9月28日付]