日経ナショナル ジオグラフィック社

パーシビアランスの旅はまだ続く。主要ミッションの2年目、パーシビアランスは、扇形をした三角州に向かう。この地域では、古代の生命の痕跡の手がかりが得られることが高く期待されている。三角州から先の探査ルートは確定していないが、ジェゼロ・クレーター全域やその先で多様な岩石と土壌を採取すれば、火星の激動の歴史の全貌を解き明かすのに役立つだろう。

[2021年9月6日]パーシビアランスが火星の岩石のサンプル採取に初めて成功。チタン製のサンプル保管チューブに収まったサンプル(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH)
[2021年9月6日]初めてサンプル採取に成功した際に、ロシェットと名付けられた岩に開けられた2つの穴。左の穴は「モンタニャック」(9月7日に採取)、右の穴は「モンデニエ」(9月1日に採取)と名付けられた(NASA/JPL-CALTECH)

最難関「サンプルリターン」の青写真

火星着陸から1年、さまざまな困難を乗り越えてきたパーシビアランスだが、最難関の「サンプルリターン」ミッションはこれからだ。

複数の宇宙船が参加するサンプルリターン計画は、NASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で取り組み、早ければ26年にはミッションの次の段階が始まる。計画では、火星着陸機が小型の回収用探査機を火星に運び、パーシビアランスが集めた火星岩石コレクションを回収する。

回収用探査機は、回収したサンプルを、火星着陸機に搭載された小型ロケットのバスケットボール大の容器に格納する。次に、このロケットを火星周回軌道に打ち上げる。NASAは、この「マーズ・アセント・ビークル(MAV)」というロケットを、米ロッキード・マーティン・スペース社が建造すると発表したばかりだ。

ESAが設計する別の探査機が火星周回軌道で「バスケットボールをキャッチ」して地球に帰還することになっている。これが、米NASAジェット推進研究所(JPL)の「火星サンプルリターン」プロジェクトについての、プロジェクト責任者、リチャード・クック氏の説明だ。

[2021年11月16日]パーシビアランスは火星で最初の年を終えたが、NASAの探査車「キュリオシティ」は、火星探査を始めて10年近くになる。このすばらしい風景は、キュリオシティが撮ったシャープ山(アイオリス山)の裾野。キュリオシティは2014年から、この山の周辺で探査を続けている。モノクロカメラが撮影した2点のパノラマ画像に、青、オレンジ、緑の色を加えて編集している(PHOTOGRAPH BY NASA/JPL-CALTECH)

注目される貴重なサンプルは、その特性から、地球へ持ち帰る際の問題もある。サンプルに生命体がひそんでいる可能性だ。可能性はかなり低いものの、現在の火星にも、かろうじて生き延びている微生物がいるかもしれず、地球の生き物へのリスクをもたらしかねない。

そこで、クック氏によれば、サンプル容器を回収する探査機では、この容器をロシアのマトリョーシカ人形のように保護カプセルで幾重にも厳重に覆うことになっている。その後、サンプルは地球に突入し、早ければ2031年に米ユタ州の砂漠に着陸する予定だ。サンプルリターン計画のチームは、来年頃に始まる宇宙船の組み立てを前に、設計の最終仕上げを行っている。

一方、パーシビアランスも全力で作業中だ。22年2月4日には、1日あたり最長となる245.7メートルの移動距離を達成した。これは、サッカー場の縦の長さの2倍以上に相当する。

パーシビアランスの相棒であるヘリコプター「インジェニュイティ」は、科学者たちがより広い範囲を見渡す手助けをしている。昨年、地球外の星で初めて動力飛行を成し遂げたインジェニュイティは、岩だらけの火星の表面で、パーシビアランスが最も安全かつ適切なルートを進めるよう、上昇して前方を確認することができる。

パーシビアランスがサンプルを採取するたび、科学者たちの思いも熱くなる。「サンプル採取が成功すると、私たちの意欲も高まります」とクック氏は言う。「この計画を成就させなければなりません。必ずサンプルを回収します」

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年2月23日付]