
「だれの目から見ても、すべてが完璧に行われていました」とオコン氏。チームの長年の努力が実を結んだ瞬間で、天にも昇る気持ちだったと振り返る。だが、次に届いたデータで、彼らはどん底に落とされた。サンプルを保管するチューブには石が入っていなかったのだ。
問題の解決に数日間を費やした結果、サンプルがもろかったため、パーシビアランスがドリルで穴を開けた時に粉々になったことが明らかになった。この失敗は、火星での遠隔作業の難しさを実感させられる苦い経験となった。
数カ月後、新たなトラブルが発生した。12月29日、パーシビアランスのドリルビット・ホルダーと回転部に石が詰まってしまい、チームは「小石地獄」に苦しんだとオコン氏は言う。

だが、火星での実験のトラブルを予測していた米航空宇宙局(NASA)の技術者たちは、惨事を回避できる複数の仕組みを、前もってパーシビアランスに組みこんでいた。その一環として、パーシビアランスのサンプル採取部品には、破片を排出できるように切り欠きや窓があらかじめ設けられていた。パーシビアランスのハンマードリルの回転数を上げ、傾斜面で作動させてみると、詰まった小石を振り落とすことができた。
「これは、一種の先読み設計です」とオコン氏は話す。「こうした工夫で、機能を強化できるのです」
岩石から分かる火星の歴史
これまでに、火星の岩石から合計6つのサンプルが採取された。火星の大気のサンプルも1つ採取されている。
1年目に採取したサンプルやそのほかのデータから、すでに、ジェゼロ・クレーターの驚くほど複雑な地質が明らかになっている。火星にかつて、小惑星の衝突や激しい水の流れ、吹きつける風、流れ出す溶岩などがあったことを示す地質だ。
最初の2つの岩石サンプルは、「ロシェット」と名付けられた岩から採取された。当初の分析では、ロシェットは火山岩の一種である玄武岩とみられている。この岩の空洞から見つかった化合物は、過去に水分が蒸発した痕跡である可能性がある。

その次に採取された2つの岩石サンプルは、「セイタ」と呼ばれる砂地で採取された。岩石の層に穴を開けると、驚いたことに、冷却するマグマだまりか大量の溶岩流から形成されたことを示す鉱石が見つかった。こうした岩石はその後に水の作用を受けて変化していることから、地球に持ち帰れば、火星に水があった過去を探る詳細な手がかりとなりそうだ。パーシビアランスに小石が詰まった12月のトラブルの後、パーシビアランスは、「イソル」という露頭からも2つのサンプルを採取した。