
2021年2月に探査車パーシビアランスが火星に着陸してから1年。この探査車はこれまでに火星のクレーター内を3キロ以上走行している。その間、数千枚の写真を撮影し、岩石の構造を分析し、二酸化炭素(CO2)から酸素を生成するマシンの実験も行ってきた。
なかでも、技術的にこれまでで最も複雑なミッションにおいて、パーシビアランスは前進を遂げている。最終的に地球に持ち帰るための、火星の貴重な岩石を収集することだ。



数十億年前、火星は厚い大気に覆われ、今よりずっと温暖で湿度が高く、生命が生息できる環境だったと考えられている。探査車が火星表面を調べたり、周回機が上空から火星を観察したりすることで、科学者たちは火星の緑豊かな過去を解明する手がかりを得てきた。火星から地球に飛来した隕石(いんせき)も手がかりを与えてくれるが、隕石は大気圏突入時に高温に包まれるため、得られる情報には限界があった。
科学者たちは現在、パーシビアランスを駆使して、地球に持ち帰るサンプルとして適切な岩石や土壌を探している。「火星サンプルリターン」というこの計画が成功すれば、火星の過去と現在の環境をより詳細に調べることができ、かつて生命体が存在したのかどうかが明らかになるだろう。
歓喜と落胆のはざまで
パーシビアランスのサンプル採取保管システムに携わる技術者アビ・オコン氏にとって、最初のサンプル採取の試みは最高かつ最悪の経験だった。21年8月6日の早朝、パーシビアランスから届いた最初のデータは、ジェゼロ・クレーターの底で最初のサンプル採取に成功したことを示していた。このクレーターは、隕石が衝突してできた直径45キロの盆地で、かつては湖があったとみられている。