筋肉は「量」だけでなく「質」が大事 鍛えるコツとは
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)筋肉の質は「筋力」で評価できる
(2)年をとると、筋肉量がまず落ち、次いで筋肉の質が低下していく
(3)メタボや脂肪肝がある人は筋肉の質が低下しやすい
答えは次ページ
答えと解説
正解(間違っているもの)は、(2)年をとると、筋肉量がまず落ち、次いで筋肉の質が低下していく です。
丈夫な足腰を維持し、健康で長生きするためには、特に下半身の筋肉を落とさないことが重要です。しかし、筋肉の量が一見保たれている人でも、ひそかに筋肉の「質」の低下が進み、身体機能の衰えなどにつながるリスクがあることが、近年の研究で分かってきました。
筋肉の質というのは、筋肉の機能のことで、筋力がその指標となります。一般に、筋肉量と筋力は相関関係にあり、筋肉が大きいほど筋力も強く、大きな力が出せます。しかし、「この相関関係は、年をとるにつれて崩れてきます」と、同志社大学スポーツ健康科学部教授の石井好二郎さんは話します。
高齢者の体重と骨格筋量(骨格を動かす筋肉の量)、筋力の変化を追跡した研究を見てみましょう。一般に、体重が重い人ほど筋肉量も多いので、この研究でも、体重が増加したグループでは筋肉量も増加し、体重が減少したグループでは筋肉量も減少していました。ところが、筋力については、どちらのグループでも同じように低下していたのです(図1)。
図1 加齢に伴う体重の増減と、骨格筋量・筋力の減少率
「このグラフを見ると、高齢になると、筋肉の量とは関係なく筋力の低下が起きていることが分かります。ある程度体重があって、自分は筋肉があると思っていても、加齢とともに筋肉の質は低下している可能性が高いのです」と石井さんは警告します。
筋力低下の原因の1つは「筋肉の中に入り込んだ脂肪」
筋肉量が保たれているのに筋力が落ちてしまうのはなぜなのでしょうか。ひとつには、筋肉の細胞の中や周辺に"サシ"のように脂肪が入り込んでいることが考えられます。筋肉の細胞に脂肪がたまると、筋肉の質が落ちて収縮する力が低下し、筋力の低下につながります。こうした、本来たまるべきではない場所にたまる脂肪を「異所性脂肪」と言います。異所性脂肪の原因は、主にエネルギーのとりすぎです。余ったエネルギーが脂肪に変わり、皮下にも内臓周辺にもためきれずにあふれ出したものが、異所性脂肪となります。脂肪肝も、肝臓に異所性脂肪がたまった状態のことを指しています。
「異所性脂肪がたまる人は、多くの場合まず脂肪肝になり、次に骨格筋に脂肪がたまり、筋力の低下が起こります。当然、内臓脂肪もたまっているので、生活習慣病のリスクが高くなっています」(石井さん)。ただ、体重はさほど多くなく、見た目の肥満はない人でも、異所性脂肪がたまる人はいます。「メタボに関連する高血糖、高血圧、脂質異常症のうち2つ以上が当てはまる場合は、筋力が低く、筋肉の質の低下が起こっていることがよくあります」。
このほか、糖尿病などの生活習慣病や、筋細胞における「オートファジー」の機能不全によっても筋肉の機能低下が起きることが分かっています。オートファジーは、細胞内の不要な物質を分解して再利用するシステムのことで、加齢や運動不足によって低下します。
加齢の影響は取り除くことはできませんが、運動によって筋肉の質の低下を食い止めることは可能です。「まずは1日10分でもいいので運動することを始め、"中強度の運動[注1]を1週間に150分以上"を目標に運動習慣をつけることをお勧めします」と石井さんは話しています。
[注1]中強度とは、3~6メッツ(METs;Metabolic Equivalents)の運動を指す。メッツは運動の強さの指標で、静かに座っているときを1メッツとして、さまざまな運動や動作が、その何倍の強度に相当するかを表している。普通歩行は3メッツ程度、早歩きは4メッツ程度、軽いジョギングは6メッツ程度に相当する。
[日経Gooday2022年3月14日付記事を再構成]
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