クセニア・リトビネンコさん(19歳)は、2日前にパリに着いたばかりだった。母親と兄はまだポーランドにいる。普段はバレエ団のツアーに参加しないが、キエフ時代の同級生4人が参加することもあって、志願した。バレエを通じて「自分を表現できるし、自分の国で今何が起こっているのかを人々に伝えることもできます」と言う。

『くるみ割り人形』の公演前に話をするミハイロ・シェルバコフさんとオルガ・ポステルナクさん(PHOTOGRAPH BY MONIQUE JAQUES)

ダンサーたちは、できる限りの仕事をし、パフォーマンスを披露し続けようとしている。ある人は「紛争のことがいつも頭から離れない」と明かす。「マリウポリの両親から2週間も連絡がない」と言う人もいる。「私たちがこのような事態に対処するのは、物理的にとても難しいことです」とコズロバさんは話す。しかし、「これほど多くの支援に恵まれているのは幸運なことです」

寄付されたタイツやレオタード

パリの関係者はダンサーたちに住居だけでなく働く場も提供したいと考えている。ダンサーたちは間もなくパリ・オペラ座でレッスンを受け始める予定で、夜の公演に参加する場合も多い。タイツやレオタードの寄付もあった。3月21日の週からはフランス国内でのツアーが再開される。

フランスでの公演で『くるみ割り人形』を披露するラダ・ロマノワさん(PHOTOGRAPH BY MONIQUE JAQUES)

パリに避難しているウクライナの芸術家集団は、キエフ・シティ・バレエ団だけではない。パリ南部の15区にあるモンフォール劇場には、約15人の別のダンサーとその家族がやって来る予定だ。文化担当として市内の劇場と調整を行っている副市長のカリーヌ・ロランさんによると、他の劇場もウクライナの芸術家を迎える準備をしていると言う。まだ何人が来るかはわからないものの、彼らが生活と仕事をするための場所を見つけることに全力を注いでいる。

「こうした大きな苦難のときにあって、文化は支援されなければなりません。抑圧されている国の芸術家たちも同様です。特にウクライナでは、彼らは抵抗の声ですから。声を持つ者は、どこにいても、声を上げなければならないのです」

(文 MADELEINE SCHWARTZ、写真 MONIQUE JAQUES、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年3月22日付]