ウクライナの首都キエフを拠点とする一座は、2月23日にフランスに向けて出発し、子ども向けの『くるみ割り人形』を2週間上演する予定だった。2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナに対する侵攻を開始。数千人が死亡し、300万人近くが避難している。バレエダンサーたちは現在、パリのシャトレ座に滞在しているが、滞在の終了はますます遠のきつつあるように思える。


「まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした」とコズロバさんは言う。持ってきていたのは、当初予定していた公演分の衣装だけ。それ以外は「何も持ってきませんでした。音楽も、ビデオも、資料も、すべてキエフに置いてきたまま……。自分たちが持っているものすべてに別れを告げたようなものです」
文化遺産への攻撃
ロシアのウクライナ侵攻によって、同国の様々な文化遺産が破壊されている。
「文化はロシアの戦争戦略における主要な標的の1つです」。そう話すのは、ウクライナで保管されているデジタルアーカイブやデータを保護しようとする約1200人の文化遺産専門家のグループ「Saving Ukrainian Cultural Heritage Online(SUCHO)」を、2人の仲間とともに主宰しているセバスチャン・マジェストロビッチさんだ。「ウクライナに固有のものがすべて消えてしまえば、プーチンの目的が果たされることになります」
ロシアがクリミアを占領・併合した2014年以降、「ロシア当局はドンバスとクリミアで遺物を撤去し、墓所を取り壊し、教会を閉鎖した」と、米国務省は声明で述べている。今回の戦争では、すでにイバンキフ歴史・地方史博物館を含む多くの建造物が破壊され、歴史あるスヴャトヒルスク修道院も被害を受けた。「かけがえのない文化遺産が傷つけられたことは、私たち全員にとって深い喪失を意味しています」
パリにいる38人のキエフ・シティ・バレエ団のダンサーは、ほとんどが18歳から22歳だ。同じ学校で学んだこともあり、幼なじみ同士のメンバーも多い。リハーサルではウクライナ語とロシア語を使う。また、英語を話すことも多く、バレエの専門用語のフランス語も使う。彼らは約70人いるバレエ団メンバーの一部にすぎない。ほかにも、チェコに滞在しているダンサーたちがいる。

