ロシア侵攻も、踊り続けるウクライナのバレエダンサー

ナショナルジオグラフィック日本版

2022年3月13日、フランスでの公演で『くるみ割り人形』を披露するキエフ・シティ・バレエ団のメンバーたち。ロシアのウクライナ侵攻により、多くの芸術家が避難している(PHOTOGRAPH BY MONIQUE JAQUES)

バレエという芸術は、集中力、規律、一貫性から生まれる。バーと床で、幾度となく繰り返される同じ動き。何百年と変わらず続いてきた、プリエ、ルルベ、ジュテ。

しかし、2022年3月16日に行われたキエフ・シティ・バレエ団のリハーサルは、ほとんどすべての面で異常だった。ダンサーたちが練習を行ったのは、写真やビデオを撮る記者たちでごった返す狭い部屋。バーのスペースが狭すぎたため、椅子やピアノをバー代わりに練習するダンサーもいた。あるダンサーは歩幅が広すぎて、部屋の外に飛び出してしまった。うまく着地できなかったのか、足首を痛めた様子のダンサーもいた。

ストレスとプレッシャーに耐える

夫のイワン・コズロフさんとともにバレエ団を主宰するエカテリーナ・コズロバさんは、ダンサーたちを指導する一方で、彼らをうろたえさせる質問をする記者たちを見張っていた。

フランスで最後となるはずだった公演を前に、リハーサルをするユリア・クズミッチさんとソリストのウラジスラフ・エフトゥシェンコさん(PHOTOGRAPH BY MONIQUE JAQUES)
フランスのナントで行われたリハーサルで、エカテリーナ・コズロバさんの指導を受けるキエフ・シティ・バレエ団のダンサーたち(PHOTOGRAPH BY MONIQUE JAQUES)

「ダンサーたちはみな、大きなストレスとプレッシャーにさらされているので、特に穏やかに接するようにしています」とコズロバさんは言う。「故郷からの電話、絶え間なく流れてくるニュース……。テクノロジーのおかげで、私たちはより多くの情報を得ることができます。ダンサーたちは、何が起こっているのか、分単位で知っているのです。彼らは常に携帯電話で最新情報を得ようとしています。多くの人が疲れ果てていると思います」

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