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8Kの技術力などで差異化

参入メーカーが相次ぐと予測したうえで、フラッグシップと位置づける理由もここにある。実は、ミニLEDを先行して採用した海外メーカーの一部製品は、比較的値ごろ感を打ち出している。ミニLED搭載ディスプレーは、例えばLEDの数を減らして性能を落とせば、コストダウンによって価格を抑えることができる。対して、シャープはブランド価値の向上を図り、ハイエンドの道を選んだ。

今後の参入も見込まれる競合他社に対し、勝算はどこにあるのか。画質設計を担った、シャープ スマートディスプレイシステム事業本部 TV技術開発センター 8Kシステム開発部 主任技師の下田裕紀氏は、「優位性は十分ある」と自信を見せる。

シャープ スマートディスプレイシステム事業本部 TV技術開発センター 8Kシステム開発部 主任技師の下田裕紀氏

その一つが8Kの技術だ。17年以降、同社は8K化に力を入れてきた。今回のAQUOS XLED導入の背景についても、「シャープといえば8Kといわれるようになり、8Kの技術開発が一段落したため、次の進化の構想として、ミニLEDはタイミング的にも自社のロードマップに合致してきた」と上杉氏は話す。

そして、AQUOS XLEDでラインアップする8Kモデルには、その技術が生きているという。地デジや4Kの映像は、新開発の画像処理エンジンで8Kにアップコンバートされており、ここで強みが出るためだ。「200万画素に満たない地デジの映像を8Kの3300万画素にするには1個の点を約16倍に増やす必要がある。それぞれの点に本来何があるべきかを推測して適切な映像にアップコンバートするため、そのアルゴリズムは膨大になる。8Kへのアップコンバートは優位性を出せる部分の一つ」と下田氏は自負する。

もう一点、「大幅に改善できている」(下田氏)と強みにするのが色の再現性だ。「従来の液晶テレビはカラーフィルターで赤青緑の三原色を表現するが、LEDの光の特性上、青が強く他の色のバランスが悪くなる。今回、量子ドット(QD)という光の波長を変えることができる半導体を用い、青色のLEDの光を赤や緑に直接変換できるようになり、純度が高い色再現と広色域化が可能になった」(上杉氏)。シャープとしては初めて採用した技術で、「従来のようにQDシートを使わないという選択肢もあったが、今回ミニLEDを採用するにあたり、合わせ技で高画質化を図っている」(下田氏)

量子ドットを採用し、色再現の純度を高める

ディスプレーが自社生産かどうかは非公表だという。今回のシリーズに限らず、「自社工場で生産しているディスプレーサイズは限られており、フルラインアップでそろえようとすると必然的にいろいろなチョイスをせざるを得ない。モデルごとに自社、他社という表現だと煩雑になってしまう。グループ内の大阪・堺や中国の工場はじめ、他社を含めてその時々で最適なものを調達している」と上杉氏は説明する。

一方で、「1から100までの垂直統合ではないが、つくりたい仕様を決め、アセンブリーして最終的な製品にする責任はシャープが持っている」(上杉氏)と力を込める。今回のAQUOS XLEDのスペックはそれが表れているといえそうだ。

21年12月10日に発売となった(4Kテレビの55型を除く)が、「実機がないうちから予約が相次いでいる。シリーズ月産4000台の計画で、弾切れを起こさないよう営業からはくぎを刺されている」(上杉氏)と滑り出しは順調のようだ。

かつて、液晶テレビでは海外勢による低価格攻勢で苦い経験をした同社。ミニLEDでは他社の参入を見越したうえでハイエンド戦略を取る。消費者に受け入れられ、AQUOSブランドの価値向上となるか。

(ライター 吉成早紀、写真 古立康三)

[日経クロストレンド 2021年12月21日の記事を再構成]

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