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更年期症状には「視床下部」が関係している

――卵巣機能が低下することにより、なぜこうした症状が起きるのでしょう。

高尾 卵巣に指令を出す、脳の視床下部が機能不全に陥るからですね。卵巣の機能が落ちてエストロゲンの分泌が減少し始めても、視床下部は卵巣の変化に気づかず、卵巣に向かってエストロゲンを作るように命令を出し続けます。すると卵巣が応えないことに対して、視床下部がうまく働けず、これが症状として出るのです。

視床下部は、3つの大きな役割を担っています。1つ目がホルモンのコントロール、2つ目が自律神経のコントロール、3つ目が免疫機能のコントロールです。これらのいずれかの働きに問題が出ると、他にも影響が出てしまうわけで、ホルモン分泌のコントロールがうまくいかなくなることにより影響を受けやすいのが、自律神経の働きです。自律神経の機能低下による症状がまさに更年期特有の不調、更年期症状です。

――更年期症状が出るのは、どれくらいの人なのでしょうか。「働く女性の健康増進調査 2018」(日本医療政策機構)によると、現在または過去に更年期症状や更年期障害があったと回答した人は約42%で、そのうち更年期症状や更年期障害が出てから4カ月以上経った後に婦人科・産婦人科を受診したと回答した人が約63%とありました。実際はもっと多いのでしょうか。

高尾 そうですね。海外の報告では、更年期症状がある人は更年期を迎えた女性の6割ほどで、このうちの半分、つまり全体の3割弱が、治療を必要とする更年期障害に相当すると考えられています。[注2]

――なんとなく不調だな、と思うことが増えていても、それを更年期の症状と自覚していない人もいそうですね。

高尾 そうですね。まずは、更年期の症状には3グループあることを理解しましょう。

1つは「なぜ起きるのかよくわからないような体の不調」。すなわち自律神経失調状態です。ほてりや発汗、血管の収縮弛緩不良による冷え、心臓を打つ回数をコントロールできないことによる動悸(どうき)などが挙げられます。

次に月経の有無を問わず起きる、加齢性の変化。例えば肩こり、腰痛、消化機能の低下は加齢に伴っても起きます。

そしてもう1つがメンタルです。イライラする、怒りっぽくなる、涙もろくなる、意欲が低下する、抑うつ気分になる。

こうした症状を感じる方は100人の女性が更年期を迎えたとしたら、60人弱なのです。60人弱が更年期の症状を経験し、4割の方は生理が来なくなったという程度にしか感じずにいられるのです。

[注2]A population based survey of women's experience of the menopause. M Porter, G C Penney, D Russell, E Russell, A Templeton, Br J Obstet Gynaecol. 1996 Oct;103(10):1025-8.

(次回に続く)

(ライター 山田真弓)

高尾美穂さん
産婦人科医・イーク表参道 副院長。医学博士・スポーツドクター・Gyne Yoga主宰・産業医。東京慈恵会医科大学大学院修了後、同大病院産婦人科助教、東京労災病院女性総合外来などを経て現職。大学病院では婦人科がん(特に卵巣がん)専門。2003年にヨガと出会い、ケンハラクマ師に師事。ヨガ、アンチエイジング医学、漢方、栄養学、スポーツ医学を多角的に用い女性の心身を様々な角度からサポートする。近著に『心が揺れがちな時代に「私は私」で生きるには』(日経BP)がある。

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