日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/11/13

ポル氏は2017年に30個の卵をフランスのグルノーブルに送り、世界で最も明るいX線源の1つである欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)で調べてもらった。結果、いくつかの卵の中には、ムスサウルスの胎児の化石が含まれていた。

ポル氏らはまた一部の骨からサンプルを採取して内部構造を調べ、年齢や成長パターンについての情報を得た。集団で発見された11体の化石はどれもほぼ同じ大きさで、死亡時の体重は8~11キロ。ムスサウルスの子どもが季節ごとに成長していたとすれば、いずれも死亡時には1歳未満だと考えられた。

今回発見された古代の恐竜の卵と69体の骨格化石は、約1億9300万年前のジュラ紀の初めの頃の恐竜の行動を知る貴重な資料となる(PHOTOGRAPH BY ROGER SMITH)

生き延びるための社会的行動

今回の発見で、ムスサウルスの子どもが少なくとも季節ごとに年齢別のグループを形成していたことが明らかになったが、おとなの行動についてははっきりしない。

この場所ではおとなの集まりは見られず、おとなが群れを作っていたことを示す直接的な証拠はない。現存する爬虫(はちゅう)類では、子どものうちは群れで暮らし、おとなになると単独で暮らすというパターンは珍しくない。また、ムスサウルスの子どもの群れは大量の卵を含む営巣地の中にいたことから、繁殖のために営巣地に向かった大きな群れの中に子どもがいた可能性もある。

いずれにせよ、ムスサウルスが社会的行動をとっていたことは間違いなく、恐竜の系統樹での位置づけは非常に重要なものとなっている。

ポル氏らは、新しい化石を発見しただけでなく、化石とその堆積物のより精密な年代測定も行った。古生物学者の間では、ムスサウルスは2億500万年以上前の後期三畳紀に生きていたと考えられていた。しかし今回の研究により、ムスサウルスは約1億9300万年前のジュラ紀の初めの頃の恐竜であることがわかった。

この違いは非常に重要だ。なぜなら、多くの陸上動物が絶滅した三畳紀末の直後にムスサウルスが出現したことを意味するからだ。その後、竜脚形類は速やかに多様化し、従来よりもはるかに大型化したため、ムスサウルスのような年齢別の群れが形成されるようになったと考えられる。

ポル氏らは、より基本的な社会的行動は、大量絶滅前の後期三畳紀にムスサウルスの祖先の間で始まったのではないかと主張している。そうだとすれば、初期の竜脚形類の社会的能力が、大量絶滅の時代を乗り切り、その後の繁栄を迎える役に立ったのかもしれない。

「この時代は、恐竜たちが実際に世界を『征服』した時代でした。恐竜が優勢になり、生態学的にも進化論的にも初めて成功した時代です。恐竜たちが成功した鍵は何だったのでしょうか?」とポル氏は問いかける。「行動は、その一因だったのではないでしょうか?」

(文 MICHAEL GRESHKO、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年10月25日付]