マイヤーズ氏によると、群れがうまく機能するためには、群れの中の個体がシンクロ(同調)している必要があるという。しかし、年齢によって大きさが劇的に変わる動物では、それは難しい。ムスサウルスの場合、生まれたときの大きさは人間の手のひらほどだが、1歳で体重10キロ弱、腰高60センチになり、おとなの体重は1500キロを超え、ヘラジカの約2倍になる。
そこで、年齢ごとに分かれて暮らす必要が出てくる。マイヤーズ氏は、「基本的に、体格差が大きくなるほど、行動を同調させるコストは高くなります」と説明する。「竜脚形類や竜脚類にとっては、未熟な個体はおとなとは別の群れを作る方が明らかに都合はよかったのです」
とはいえ、化石の記録からこのような社会的行動について推論するのは難しい。一方で恐竜の生痕化石はそうした推論の役に立ち、ムスサウルスよりもかなり新しい恐竜の中には、保存されていた足跡から、複数の世代で群れを形成していたことが明らかになったものもある。
骨格化石からも社会的行動が示唆されることがあるが、そのためには、群れがいちどに全滅して土中に埋もれた化石を発見する必要がある。複数の骨格化石が近くで発見されたというだけでは、それぞれの個体が生きて死んだ時期に何年もの隔たりがあるかもしれないからだ。
ポル氏らは過去20年にわたり同じ現場でムスサウルスの化石を発掘する中で、この恐竜について飛躍的に理解を深めてきた。研究者らは、ムスサウルスの体が成長に伴ってどのように変化したかについても解明した。
この恐竜は、子どものうちは四足歩行をし、おとなになってからは後ろ足で二足歩行していたことが確実視されている。新たな研究から、ムスサウルスの卵は革のような柔らかい質感で、母親は産んだ卵を抱かずに土の中に埋めていたと考えられている。
ポル氏にとって最大の驚きの1つは、2003年に11頭の若い個体の化石が集まった岩の塊を発見したときだった。「岩の一部を取り除くと頭蓋骨の上部があり、首は岩の中に続いていました。これは何か違うと思いました」と氏は振り返る。
この現場で見つかったほかの化石も、ムスサウルスが群れで生活していたことを示していた。最初に報告されたムスサウルスの化石も子どものもので、複数の個体がすぐ近くに集まっていたが、今回の発掘では、体が絡み合うほど近くにあった2体のおとなの化石も見つかっている。
これらの恐竜が本当に集団で死んでいたのか、それとも別々の時期に同じ場所で死んだだけなのか。それを確かめるべく、論文の共著者である南アフリカ、ヨハネスブルクにあるウィットウォーターズランド大学のロジャー・スミス氏らは、発掘地点の堆積物を注意深く調べた。
スミス氏の分析によると、この場所のムスサウルスの化石が埋まっていた層は3つあったが、化石や卵の多くが同じ層にあり、ほぼ同時期に埋まっていたことがわかった。研究チームはいくつかの手法を用いて、これらの恐竜がすべてムスサウルスであることを確認し、その年齢や大きさを調べた。