三菱鉛筆「ユニボール ワンF」 ちょい高でも大ヒット
三菱鉛筆が2021年9月21日に発売したゲルインクボールペン「uni-ball one(ユニボール ワン)F」が好発進を切った。税込み330円と割高にもかかわらず、売り上げ数量は発売から半月で年間目標の7割を達成。今後もさらなるヒットが期待される。ボールペン市場でこの価格レンジは空白地帯だったこともあり、文具好きや業界関係者の注目を集めている。
ユニボール ワンFのリフィルは20年2月発売のゲルインクボールペン、ユニボール ワン(税込み132円)と同じものを使う。同商品はシンプルなデザインと、高コントラストでくっきりと見やすい黒インクや、鮮やかに発色するカラーインク、そして高い速乾性が受けている人気商品。発売から1年半の売れ行きは、同社従来のノック式ゲルインクボールペンと比べて4倍を誇る。
では今回のユニボール ワンFの特長は何か。価格はユニボール ワンの2.5倍に跳ね上がったものの、高級感と使い勝手の向上という独自の魅力を持つ。とにかく、手にすっとなじみ、書いていて心地よいのだ。筆者は多くのボールペンをレビューしてきたが、手に持った瞬間、「これまでのボールペンとは次元が違う」と思うほどの高い仕上がりを感じた。
この特長について、開発を担当した三菱鉛筆研究開発センターの丸山精一氏は、「手にしただけで分かる高級感と、自然に感じてもらえる書きやすさを目指した」と説明する。ボールペンは下向きにして使うため、重心が下にあると持ちやすく、書きやすい。その低重心を実現する方法には色々あり、最近はペン先の口金に重い金属を使って重さを一点に集中させる手法が主流だ。この場合、確かに持ったボールペンは自然に下を向くものの、長時間書いているとペン先の重さが気になってしまうという弱点がある。細かい文字を書くときも同様だ。
こうした問題に対して、丸山氏ら開発陣はペン軸の内部から口金にかけて金属の長いパイプを入れる解決策を編み出した。それが、同社の「スタビライザー機構」という仕組み。重心位置をペン先から指先のあたりに移動させ、ボールペンが自然に下を向くことと、ペン先が軽く感じられることをバランス良く両立させたのだ。
ペン全体が重くなるので、高級感を演出できるメリットも生まれる。軸内部から口金までを一体化する構造には高い工作精度を要求されるが、実現させれば口金の精度と剛性の向上につながる。紙に接するペン先のホールドが緻密になり、書くときにペン先のブレが少なくなった点もいい。
グリップをなくして生まれたメリット
デザインにも注目だ。ボールペンの軸からペン先までが流れるように真っすぐにつながるデザインは美しく、他商品では見られない。「スタビライザー機構の採用に加え、グリップをなくしたことで、より自由なデザインができるようになった。ミニマムで軸全体が砲弾のようなきれいな流線形になるように意識した」(デザインを担当した、同社商品開発部デザイングループの西田剛史氏)という。
このデザインは、実用性にも寄与している。書いているペン先周辺の見通しが良く、ウエートバランスの良さとの合わせ技で、書きたいポイントにスムーズに書ける印象を受けた。
ユニボール ワンFは、ボールペン市場における今後の可能性を示唆する。丸山氏は、「普段使いのボールペンに対する消費者意識は確実に変化していて、デザインなどの情緒的な部分の重要性が高まっている」と指摘。軸色は三菱鉛筆が出した一つの答えだ。少しくすんだ中間色をマットに仕上げ、無垢、花霞、日向夏といった、色をイメージさせる名前を付けた。
「『日常の中の色』をテーマに、イメージを想起しやすい言葉を選んだ。SNS(交流サイト)での評判が良く、うれしい」と三菱鉛筆商品開発部の古場涼太氏。7種類の軸色に対してインク色は黒のみだが、全色をそろえる購入者が多く、驚いたという。ユニボール ワンFのヒットに触発された他社も参入して300円台の市場が生まれたら、ボールペンはさらに面白くなる。
(フリーランスライター 納富廉邦)
[日経クロストレンド 2021年10月20日の記事を再構成]
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