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溶けた水を氷河に戻せ! アルプス救出大作戦

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

ウインタースポーツを楽しもうと、世界中から多くの人がやってくるアルプス。ここでは、経済も文化も雪の深い冬を基盤にして成り立っている。だが、地球温暖化によって、雪と氷が急激に減少している。この危機を回避しようと、動き出す雪氷学者や地元住民をナショナル ジオグラフィックは追った。

◇    ◇    ◇

実は1980年代や90年代にも雪の少ない冬が続き、人工降雪機で乗りきったことがあった。標高が低い地域では、観光業を途切れさせないためには多額の投資も必要で、この状況は例外的なものだと誰もが思っていた。だが、例外ではなかった。ポルト峠の積雪を、過去30年とそれ以前のものとを比較したグラフを見ると、折れ線が急降下していて、積雪が平均で約38センチも減ったことを示している。

近年、温暖化の傾向はさらに標高の高い土地にまで及んでいる。キッツシュタインホルンで雪の管理責任者を務めるピーター・レオは、「あの頃、人工降雪機が欠かせないものになると言われたら、冗談だろうと答えたでしょう。でも、今ではすっかり必需品です」と言う。

アルプスのゲレンデは人工雪

アルプス全体で1100人いるリフトの運転員も同様だろう。今ではスキー場の雪の多くは人工雪だ。キッツシュタインホルンだけでも、ゲレンデの各所に草色をした大砲のような人工降雪機が104台配置されている。

レオがその1台を作動させると、すさまじい音で会話もままならなくなった。降雪機は、水と空気を噴霧する外側のノズルから出た水滴と、水を噴霧する内側のノズルから出た水滴を衝突させてファンで飛ばし、雪にする。「ファンは強力だから吸い込まれますよ」とレオは大声で注意するように言った。

キッツシュタインホルンのような氷河に立っていると、小さな雪片がこれほど巨大な氷塊になるとは想像しがたい。何百年もの間、新しい雪が積もるたびにその下の層が圧縮され、やがて氷になって氷河を形成し、自らの重さで斜面を降下し始める。ただ19世紀後半以降、一帯の氷河はほぼ一貫して後退を続けている。

だが、スイスの雪氷学者フェリクス・ケラーには、この流れを逆転させる秘策がある。ケラーはアルプスのスキーリゾート発祥の地、サン・モリッツの隣村で育った。2021年に取材したとき、ケラーは近くのホテル・モルテラッチで、最後のドイツ皇太子ヴィルヘルムを写した1919年の白黒写真を見せてくれた。皇太子と側近が笑顔でモルテラッチ氷河に立っているが、その場所はホテルのすぐ外だ。その頃は厚い氷が谷全体を埋め尽くしていたのだ。

ケラーと私は同じ場所に行ってみた。ヴィルヘルムの訪問から100年を経て、そこはカラマツやマツの林になっていた。夏の終わりとあって、地元住民がキノコやクランベリーを採りにやって来る。氷河の先端は1.5キロ以上も後退していて、そこから見ることはできなかった。

試作品の実験で約4億6000万円

1850年以降、アルプスの氷河は氷の3分の2が失われた。その消失は速まる一方だ。スイスにあるチューリヒ工科大学の雪氷学者マティアス・フスは、氷河がすべて失われる前に、今すぐ温暖化を引き起こす炭素の排出量を大幅に減らさなければならないと訴える。

それに加え、ケラーにはもう一つ考えがあった。氷河の融水を標高の高いところに集めて貯蔵し、氷に戻すというアイデアだ。

友人の雪氷学者で、1994年からモルテラッチ氷河を研究しているハンス・ウルレマンスがさらに踏み込んだ案を出した。融水を氷ではなく雪に変えれば、太陽光の90%以上を反射して夏の間、氷を守ってくれる。氷河の消失が大きい土地でも、全体のわずか10%を雪で覆うだけで、10年後に氷河は前進を始めるという試算だ。単純明快な解決策に二人は小躍りした。

ただ、人工降雪機を使った場合、モルテラッチ氷河を守るためには、毎年約80ヘクタールの広さに厚さ9メートル以上の雪を積もらせなくてはならない。量にして250万トンにもなる。それだけの雪を一般的な降雪機で作るとなると、過大なエネルギーを消費する。

「モルト・アライブ」(モルテラッチ氷河を救え)と命名されたこのプロジェクトのために、ケラーはスイス国内の大学の研究者、ケーブルカー会社、人工雪の製造関連企業バクラー・トップ・トラックに協力を求めた。長さ約1000メートルのホースのような「スノーケーブル」7本を、モルテラッチ氷河の二つの氷堆石(モレーン)の間に渡すのだ。そこより標高の高い場所に融水湖を造り、ケーブルを通って低い方へと流れる水をノズルで噴霧すれば、雪となって氷河に降るという算段だ。電気は一切必要ない。

氷河近くの駐車場で行われた試作品の実験に私も立ち会った。柱を2本立て、その間にノズルが6個付いたスノーケーブルを固定する。最初の雪片が頭にひらりと落ちると、ケラーは目を潤ませた。

ただ、試作品の実験にこぎ着けるだけで約4億6000万円もかかった。スイス政府と銀行、33つの財団から支援を得たが、本格的に実施するとなると、およそ195億円の資金が必要で、自然保護区にトンネルを掘る許可もいる。モルテラッチ氷河に雪を降らせるまで10年はかかってしまいそうだ。その間に氷河はさらに数百メートル後退してしまうだろう。

フスは、温暖化の進行をいくらか楽観的に考えたとしても、モルテラッチ氷河は21世紀末までに消失すると試算し、モルト・アライブをやろうとやるまいと関係ないと主張する。

ケラーも氷河消失までに時間がないことはわかっている。でも「私が死ぬ間際、少なくとも何らかの手立ては試してみたと、子どもや孫に伝えることができます。問題点をあげつらうより、よほどましですよ」と語った。

(文 デニース・ホルビー[ジャーナリスト]、写真 シリル・ジャズベック、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2022年3月号の記事を再構成]

ダイジェストで紹介した記事は、ナショナル ジオグラフィック日本版2022年3月号の特集の一つ、「冬が消えるアルプス」です。このほか、トラやヒョウなどの保護で成果を上げつつあるインドを紹介する「よみがえるビッグ・キャット」、開発業者や麻薬カルテルの侵入に抵抗する活動家が殺されているコロンビアを描く「愛する土地を守る」、日本人写真家が記録した「生き続ける侍の心」などを取り上げています。Twitter/Instagram @natgeomagjp

ナショナル ジオグラフィック日本版 2022年3月号[雑誌]

著者 : ナショナル ジオグラフィック
出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
価格 : 1,210 円(税込み)

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