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70年前ビーバー移住にパラシュート 奇抜な作戦の是非

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

その電話が鳴ったのは2014年のことだった。

「見つかりましたよ」。相手は謎めかして言った。声の主は、米アイダホ州立公文書館のミカル・デビッドソン氏だ。

「何がですか」。アイダホ州漁業狩猟局の歴史担当者だったシャロン・クラーク氏は尋ねた。

「ビーバーのフィルムです」

クラーク氏がこのフィルムの存在を知ったのは、その6年前。今から見ればひどいことかもしれないが、1948年、漁業狩猟局はビーバーを新たな土地に移住させるため、パラシュートで空から降下させるという作戦を遂行した。その様子を収めた映像が見つかったのだ。クラーク氏は一刻も早く見てみたいと思った。

動物たちの移住作戦、今と昔

動物の移住作戦は現在でも行われている。たとえば、クロサイの生息数を復活させるために、この動物に麻酔をかけ、ヘリコプターで足をつり上げて新しい場所に移動させることがある。シロイワヤギに目隠しをしてヘリコプターで別の土地へ運ぶこともある。山岳地帯の貴重な植生が食い荒らされるのを防ぐためだ。飛行機から魚を湖に放すことも珍しくない。しかし、1948年当時、いや、今でさえも、ビーバーを箱に入れ、パラシュートで降下させて移住させるという発想には驚かされる。

当時、アイダホ州の担当者たちは途方に暮れていた。新鮮な空気と自然を求めて、都市部から州南西部に移住する住民が多くなっていたときだ。アイダホ州の南西部には多くのビーバーが住み着いていたが、ビーバーは木を倒してダムを造る習性があるので、あふれた水で庭が水浸しになったり、スプリンクラーや果樹園、水路などに被害が出たりするようになった。

ビーバーが重要な「生態系エンジニア」であることは、漁業狩猟局も認識していた。ビーバーは、湿地帯の形成や維持、水質の向上、浸食の軽減、動物や魚、水鳥、植物などの生息地の維持などに貢献する。さらに、人間への水の供給を安定させる役割も果たしている。そこで局は、その一帯に住み着いていた76匹のビーバーを駆除するのではなく、移住させようと考えた。

当時、漁業狩猟局に務めていたエルモ・W・ヘター氏は、学術誌「Journal of Wildlife Management」の1950年4月号に掲載された「航空機とパラシュートによるビーバーの移動」という論文に、「陸路でビーバーを移住させるのは困難で、時間も費用もかかり、死亡率もかなり高い」と書いている。

アイダホ州は1930年代から、人間の居住地にいる「迷惑な」ビーバーを移住させる取り組みを行っていた。かつては、北米全体で数千万匹ものビーバーが生息していたが、毛皮目的の乱獲により、1900年には10万匹ほどまで激減していた。やがて、ビーバーが川辺の生態系を守るうえで重要な役割を果たしていることがわかってくると、ビーバーの再導入と保護が優先されるようになった。

陸路でビーバーを移住させる場合、まずわなを使って捕獲し、トラックで保護官のもとに運ぶ。翌日、別のトラックに乗せて移住先に一番近い道まで移動する。最後に、ビーバーを入れた箱を馬の背中に乗せて目的地まで運ぶ。

ビーバーは太陽の熱に弱いので、常に冷やしたり水を与えたりしなければならない。ストレスのため、何も食べなくなることも多かった。「年を取ったビーバーは、危険なほど暴れることがしばしばだ」と、ヘター氏は論文に記している。「特に過酷なのは、最後の部分だ。生きたビーバーを乗せると、その動きやにおいによって、馬はおびえて言うことを聞かなくなる」

別の輸送手段が必要なことは明白だった。

ヘター氏はこの問題に取り組んだ。目的は、アイダホ州南西部から、州中部のソウトゥース山脈にあるチェンバレン盆地(現在はフランク・チャーチ=リバー・オブ・ノー・リターン自然保護区)まで、ビーバーを安全かつ迅速に、さらに手ごろなコストで運ぶことだ。

やがて、あるアイデアが浮かんだ。第2次世界大戦で余ったパラシュートにビーバーを入れた箱を取りつけ、小型機から降下させるという方法だ。

着陸したら開く箱

ヘター氏が直面した難題は箱の設計だ。輸送時はビーバーが逃げられないようにしつつも、着地したらすぐに箱が開かなければならない。そこで、柳の枝を編んで試作品を作ってみた。これならば、ビーバーは枝をかじって簡単に抜け出すことができる。しかし、このアイデアはあきらめた。空中にいる間に出てしまう可能性があることに気づいたからだ。

さらにさまざまな箱を試した。まずは空の状態で試し、その後、ジェロニモという名前の高齢のビーバーを使って何度も繰り返し実験した。最終的に落ち着いたのは、ふたのない2つの木製の箱を合わせてちょうつがいで留め、スーツケースのようにしたものだ。2つの箱には2.5センチほどの空気穴がついており、ロープで留められているが、着地してパラシュートが落ちてくると、ちょうつがいが開く仕組みになっている。

さらに試行を重ね、目的とする草地にビーバーを降下させるために最適な高度を突き止めた。精度を上げるには、樹木を避けて低空を飛ばなければならないが、パラシュートが開くだけの高度を保つ必要もある。最終的に、理想の高度は約150メートルから245メートルの間であることがわかった。

「ジェロニモが箱から出てくるたび、誰かが待っていて捕まえるのです。かわいそうに!」と、ヘター氏は実験の報告書に記している。「最終的にあきらめるようになり、私たちが近づくと自分から箱に入り、次の旅の準備をするようになった」

パラシュートでビーバーを降下させるというのは最高の方法ではないかもしれない。しかし、この試行の結果、ビーバーが箱の中で過ごす時間は陸上を移動する場合よりも短くなり、生存率も高くなることがわかった。

非営利団体「動物福祉研究所」の野生生物学者であるD・J・シューベルト氏は「ビーバーを箱に入れてパラシュートで降下させるという方法は、利用できる手段のなかでは最適だったのかもしれません。それでも、ビーバーの健康が損なわれた可能性は高いと思います」と話す。一方、「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」の専務理事を務めるステファニー・ベル氏は、パラシュート降下は残酷だと述べている。

作戦は「成功」

1948年8月14日、初めての大規模なビーバーの降下が行われた。パイロットと保護官が乗りこんだ小型機には8つの箱が積み込まれた。その後の数日間で、76匹のビーバーが新たな土地に降り立った。

作戦はほぼ支障なく進んだ。ただ、初日の降下のうちの一回で、箱を固定していた紐が切れるという事件が起こった。隙間からビーバーが顔を出し、やがて箱の上に抜け出してきた。しばらくの間、そのビーバーは箱の上でアイダホの気流に乗っていた。

「そのままそこにいれば、何の問題もなかった」とヘター氏は書いている。「しかし、どういうわけか、地上25メートルあたりで箱から飛び降りてしまった」

このビーバーは生き延びることはできなかったが、作戦で犠牲になったのは1匹だけだった。

米アイダホ州漁業狩猟局は、ビーバーの移住作戦は成功したと考えた。納税者が負担した金額はビーバー1匹あたりわずか7ドルで、ほとんどのパラシュートは回収され、再利用された。数カ月後には、ビーバーたちはダムを完成させ、コロニーもできつつあった。

現代において、この作戦が繰り返されることはあるのだろうか。局の広報担当であるロジャー・フィリップス氏に尋ねてみたところ、可能性はあるが、おそらくそうはならないだろうという答えが返ってきた。「このような作業にはヘリコプターのほうが適しています。ヘリコプターなら、パラシュートは必要ありません」

PETAのベル氏によると、今は新しい方法があり、ビーバーがダムを造っても水があふれないようにすることができるという。つまり、昔ほど頻繁にビーバーを移住させる必要はない。

ついに映像が見つかる

シャロン・クラーク氏の好奇心がなければ、空飛ぶビーバーの話は広く知られることはなかっただろう。ヘター氏の驚くべき作戦から約50年後、クラーク氏はロジャー・ウィリアムズ氏という人物とランチをとっていた。ウィリアムズ氏は、1950年代に漁業狩猟局でビーバーなどをわなで捕まえる仕事をしていた。「いつものようにおしゃべりをしていたら、何気なくこう聞かれたのです。パラシュートで飛ぶビーバーの話を聞いたことがあるかって」

クラーク氏は冗談だと思って笑った。

「すると、古いニュース記事を見せてくれたのです。私は、『あり得ない!』と言いました。そうしたら、実験の様子を収めた証拠のフィルムもあると言うのです。『Fur for the Future(未来のための毛皮)』という短編ドキュメンタリーです」

しかし、どこにあるのかを聞いても、ウィリアムズ氏は誰も知らないと答えるだけだった。

漁業狩猟局に33年間勤めているクラーク氏は、その映像を探そうと心に決めた。「これまで聞いたなかで、いちばん興味をそそられる話でした。何としても見つけたいと思いました」

ほぼ半年ごとに、州の公文書館に電話して映像が見つかったかを確認し続けた。そして2014年、ついにその電話がかかってきた。

映像のラベルと分類が間違っていたということだった。さらに、フィルムは古く乾燥しており、取り出すと分解してしまう可能性もあるという。そのため、専門家がデジタル復元した映像を実際に見ることができたのは、それから数カ月後だった。

「公文書館で映像を受け取って見てみました。みんな笑いましたよ」とクラーク氏は話す。「局内で回したらおもしろいだろうと思っていたら、誰かが地元のニュース会社に渡したのです。そして、大きな話題になりました」。動画は2015年10月にYouTubeに投稿され、現時点で60万回以上再生されている。

1948年のビーバー降下作戦は、実際に空を飛んだビーバーにとっては最悪の瞬間だったかもしれない。しかし、漁業狩猟局が行った独創的で奇抜な作戦として記憶されることになるだろう。

「フィルムを探し出してみなさんと共有するというのは、とても楽しい経験でした」とクラーク氏は話す。「私の仕事には、ほかにも楽しいことがあります。でも、あのテープだけは別格です」

(文 LUCY SHERRIFF、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年10月14日付]

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