日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/2/12
2021年4月、メキシコ国立自治大学生態学修復研究所の水槽を泳ぐ生後3カ月のメキシコサラマンダー。飼育が容易なメキシコサラマンダーはペットとして世界中で人気を博している(PHOTOGRAPH BY LUIS ANTONIO ROJAS)

1993年、メキシコ政府はメキシコサラマンダーの生息地を守るために、広さ約214ヘクタールの「ソチミルコ・エコロジーパーク&植物市場」を保護区に指定した。しかし、その成果はなかなか見えてこない。下水処理場からの汚染や都市化の影響により、同地域の大半が危険にさらされている状況は今も変わらないと、ザンブラノ氏は言う。

代替案としてザンブラノ氏らは、飼育下にあるメキシコサラマンダーを一時的に放流するための池を設置した。最近の実験においては、研究室で飼育されたつがい11組が、大学のキャンパス内にある3つの池に一度に1組ずつ放流された。その結果は期待の持てるものだった。11組のうち7組が卵をふ化させ、生き延びた幼体も健康に育ったのだ。

プラスチック製のバケツの中を泳ぐ生後10日のメキシコサラマンダーの幼生。メキシコサラマンダーは成体になるまで幼生の姿を保つ珍しい生物(PHOTOGRAPH BY LUIS ANTONIO ROJAS)

今のところ、こうした飼育下のメキシコサラマンダーは万が一に備えて確保されている状態だ。野生個体が完全に絶滅しない限り、このメキシコサラマンダーをソチミルコに放すことはないとザンブラノ氏は言う。

伝統農法で新たなすみかを

伝統農法を復活させて、メキシコサラマンダーの生息地を確保しようという動きもある。ソチミルコ出身のディオニシオ・エスラバ・サンドバル氏が取り組むのは、スペイン征服以前に盛んだったチナンパ農法だ。水草などを積み重ねた人工の浮島(チナンパ)の上で作物を育てる農法だ。

チナンパのある水辺はメキシコサラマンダーにとって最適な生息場所となるが、伝統的な農業の衰退によって、その95%は現在、植物が生い茂ったり、放棄されたりといった状態で、農耕には使われていない。

2021年3月、水槽でくつろぐ若いメキシコサラマンダー(PHOTOGRAPH BY LUIS ANTONIO ROJAS)
2021年6月、6車線の陸橋の建設により一部が破壊されたソチミルコの湿地。こうした生息地の消失が、メキシコサラマンダーにとっての主要な脅威となっている(PHOTOGRAPH BY LUIS ANTONIO ROJAS)
2020年12月に撮影された、放棄され、雑草に埋め尽くされたチナンパ。伝統的なチナンパ農法は、農家への支援不足も一因となって数十年前から衰退してきた(PHOTOGRAPH BY LUIS ANTONIO ROJAS)

サンドバル氏は、すっかり荒れ果てていたあるチナンパを修復し、約190平方メートルの農地として生まれ変わらせた。そのチナンパでは現在、ニンジン、ニンニク、ブロッコリーといった作物が、在来種の種子から有機農法によって育てられている。

サンドバル氏のチナンパはまた、11匹のメキシコサラマンダーの新居ともなっている。氏は政府の許可を得たうえで、これらの個体を主要な運河からのびる水路へと移した。水路には2種類のフィルターが設置され、重金属などの汚染物質や、コイやティラピアが入り込めないようになっている。同様の水路を持つ近隣の地主や農家も、この手法を活用して、少なくとも240匹のメキシコサラマンダーを放流している。

サンドバル氏との直接の協力関係はないものの、ザンブラノ氏のチームもまた「チナンパ避難所プロジェクト」に取り組んでおり、地元のチナンパ農家の助けを借りて、メキシコサラマンダーの保護場所を20カ所設置して主要な運河から個体を移動させている。

サンドバル氏は、さらに多くの人たちが後に続いてくれることを期待している。「この活動が広がってくれることを願っています。わたしたちは模範を示すことで、人々を教育しているのです」

2019年11月8日、メキシコシティのソチミルコで行われた演劇のために、ピラミッドを模した構造物に映し出されるメキシコサラマンダーの映像(PHOTOGRAPH BY LUIS ANTONIO ROJAS)

(文 TINA DEINES、写真 LUIS ANTONIO ROJAS、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年1月19日付]