絶滅危機キリン 引っ越しで復活の兆し

日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/2/11
ナショナルジオグラフィック日本版

南アフリカのマディクウェ動物保護区に暮らす2頭のオスのキリン。野生のキリンの個体数は、2015年から大幅に増加している(PHOTOGRAPH BY SHANNON WILD, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

「静かなる絶滅」に向かっていると言われているキリンが、新たな調査によると、個体数を増やしつつあるという。昨今の自然保護においては珍しい、明るいニュースだ。

最新の調査データを分析したところ、現在のアフリカ大陸のキリンの個体数の合計は約11万7000頭。前回大規模な調査が行われた2015年の推定数から、約20%増加している。

アフリカ南西部の国ナミビアに拠点を置く「キリン保全財団」の共同代表ジュリアン・フェネシー氏によると、純粋に数が増加した地域もあるが、統計データの精度が上がったことも一因という。同氏は、「いずれにしろ、このように数が増えるのはうれしいことです」と話す。

かつてキリンは1種だと考えられていた。しかし、近年の遺伝子分析から、キリンには4つの種が存在する可能性が高いことがわかっている。数が大幅に増えているのはそのうちの3つ、キタキリン、アミメキリン、マサイキリンだ。残るミナミキリンの数は、前回からほとんど変わっていない。

分析に使われたデータは、21カ国で過去数年間にわたって政府や研究者、非営利団体、場合によっては市民科学者が収集したものだ。フェネシー氏と6人の共著者は、この膨大な情報を分析し、結果を21年12月に査読付き学術書『Imperiled: The Encyclopedia of Conservation』で発表した。

しかし、数百年前には100万頭ほどが生息していたことを考えれば、キリンの個体数が少ないことに変わりはない。過去数十年でキリンの数は減少し、この状況を「静かなる絶滅」と表現する科学者もいるほどだ。

キリンは、生息地の環境悪化や分断、気候変動、密猟などの脅威に直面している。フェネシー氏は、喫緊の対応が求められることに変わりはないと言う。

「しかし、ポジティブなニュースもあるのです。保護活動においては、ネガティブなニュースが注目されすぎている面があります」と、同氏は話す。

データを分析して生息数を推定

すべてのデータを読み解いて合理的に解釈するには、多大な労力が必要だ。さまざまな連携や働きかけ、協力者も欠かせない。「こうした複雑で絶えず変化するパズルを、確実に組み立てられるようになってきています」と述べるのは、今回の研究の共著者の一人で、キリン保全財団と米国バージニア州のスミソニアン保全生物学研究所の生態学者であるマイケル・ブラウン氏だ。

また、現地調査の精度も上がっている。従来の方法では、研究者たちは、主に飛行機から野生のキリンの数を確認していた。しかし、場所によっては植物に隠れているキリンが見逃されてしまうため、総数が少なくなりやすい。より精度の高い新しい手法では、大量の写真を撮影してスキャンし、コンピューター・プログラムを使って、1頭ごとに異なる、キリンの体の網目模様から個体を識別する。

「個体の推定数が増加したのは、調査方法が進化したことも影響しているかもしれません。しかし、保護プログラムが効果を上げていることを示す明確な証拠もあります」と話すのは、米サンディエゴ動物園ワイルドライフ・アライアンスの生物学者で、キリンを研究しているジェナ・ステイシー=ドーズ氏だ。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。

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