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かゆみをコントロールする新薬でアトピーを改善

アトピー性皮膚炎の治療は、肌を清潔に保ち、保湿を心がけ、適切なステロイドの塗り薬などを塗るのが基本。ただ、そう一言で言っても、全身のケアを毎日続けることは患者や家族の大きな負担になっていた。

しかし、アトピー性皮膚炎の発症メカニズムの研究が進み、2018年にかゆみを効果的にコントロールすることで症状を軽減する生物学的製剤(抗体医薬)の注射薬「デュピルマブ」(商品名:デュピクセント)が登場した。アトピー性皮膚炎ではバリア機能が壊れた皮膚からハウスダストなどのアレルゲン(抗原)が侵入。それをキャッチした免疫細胞である樹状細胞からの指令でヘルパーT2細胞が活性化され、この細胞から放出されるサイトカインであるIL-4、IL-13、IL-31などがかゆみの引き金になる。

高森特任教授は「デュピルマブは、こうしたサイトカインをブロックすることで患者のかゆみを軽減。悪循環をストップすることで皮膚症状を改善できるようになった」と解説する。

腎臓病などの患者を悩ます激しいかゆみ

日常生活に支障が出るほどの強いかゆみで悩まされるのはアトピー性皮膚炎だけではない。例えば、腎不全になると皮膚がカサカサになりかゆみが出てくるが、さらに症状が悪化し透析を受けるようになると、8割から9割の人がかゆみを訴えるようになる。さらにその1~2割は夜も眠れないような「激痒(げきよう)」という症状で苦しんでいる。高森特任教授は「患者さんは体を冷やしたりして工夫しているが、なかには小さな熊手で背中を掻かないと眠れないという患者さんもいる」と訴える。

こうしたかゆみは肝硬変など重い肝臓病、糖尿病、エイズなどでも見られる。多くは明らかな皮膚症状が見られない皮膚掻痒(そうよう)症と診断され、しかも抗ヒスタミン薬の効果が得られない「難治性のかゆみ」だ。なかには検査で原因となる病気が見つからないのに強いかゆみだけを訴える皮膚掻痒症もあるという。

中枢性のかゆみのメカニズムを解明

こうした病気では、かゆみを伝える神経であるC線維の異常などが見られないのに、なぜ激しいかゆみを感じるのか。その原因も長い間分かっていなかったが、高森特任教授らの研究グループが注目したのは、C線維が関与する末梢のかゆみとは異なり脳内のオピオイドという物質が関与する中枢性のかゆみの存在だ。

オピオイドは末期がんの患者の痛みの治療にも用いられるモルヒネと似た構造と機能を持つ物質の総称だ。モルヒネを使用すると強い痛みは消失するが、使用を続けているとかゆみが出てくる。そこで研究グループは脳内にある4つのオピオイドが関与する神経の働きを調べてみると、「β-エンドルフィン/μ(ミュー)-受容体系」はかゆみを誘発し、「ダイノルフィンA/κ(カッパ)-受容体系」はかゆみを止める働きがあることが分かった。

中枢のかゆみをもたらす2つの受容体系

β-エンドルフィンとダイノルフィンAはそのバランスによってかゆみを強めたり弱めたりすると考えられている。β-エンドルフィンが増えると強いかゆみが起こり、ダイノルフィンAが増えるとかゆみが抑えられる

研究グループでは、この2つのバランスの崩れが中枢性のかゆみに大きく関わっていると考え、「ダイノルフィンA/κ-受容体系」が強く働くような薬の開発に東レと共同で取り組み、2009年にκ-受容体に結合して働く「ナルフラフィン塩酸塩」(商品名:レミッチなど)を掻痒症治療薬として発売した。

高森特任教授は「ナルフラフィン塩酸塩は、現在では慢性腎不全や肝硬変のかゆみの改善に使われている。患者によってはピタッとかゆみが止まることもあり、QOLの改善に役立っている」と話している。

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耐えがたいかゆみで悩んだら