心臓の機能落ちる心不全 平均寿命延びて増えた理由

日経Gooday

写真はイメージ=123RF
日経Gooday(グッデイ)

最近、心不全が増えている。心不全とはどういう病気なのか、なぜ増えているのか。また、心不全にならないためには、どうしたらよいのか。また、心臓や脳などの血管系の病気「循環器病」は、心不全、心筋梗塞、脳卒中など様々あり、よく違いが分からないという人も少なくないだろう。2021年12月16日に実施された日本抗加齢医学会WEBメディアセミナーでの東京大学大学院医学系研究科循環器内科特任准教授原田睦生さんの講演を基に、心臓病などの現状と、心不全の予防法について紹介しよう。

脳卒中が減って平均寿命が延びた

1965年に男性で67.74歳だった平均寿命が、2020年には81.64歳まで延びてきた。平均寿命が劇的に延びた理由の一つは、脳卒中の減少だ(下図)。1965年に脳卒中は日本人の死亡原因のトップだったが、時代とともに大きく減っている。

令和2年(2020) 人口動態統計月報年計(概数)の概況「主な死因別にみた死亡率(人口 10 万対)の年次推移」

脳卒中が減った大きな要因に、フラミンガム研究の成果がある。フラミンガム研究とは、アメリカのフラミンガム市の住民5209人を対象に1948年に始まった大規模な疫学調査だ。登録した住民の健康状態を長期にわたって追跡することで、様々な病気の原因が解明されてきた。

1960年代には高血圧が脳卒中や狭心症の原因になると分かり、高血圧を治療するようになった。塩分摂取量が多いと高血圧になることも分かり、塩分摂取量を減らすようにした。

「1960年代の日本人(70歳以上)の収縮期血圧は平均166mmHgだったのが、最近では141mmHgに下がっています。また、1960年代には日本人の塩分摂取量は1日約17gでしたが、今は約10gまで減りました」と原田さんは説明する。

喫煙も脳卒中の原因になることが、フラミンガム研究で分かった。心筋梗塞は2.95倍、脳卒中は1.61倍など、喫煙は循環器病のリスクを増やす。

「1965年ごろには、喫煙はかっこいいというイメージがありました。40代男性の87%が喫煙者でしたが、いまは36%に減っています。塩分摂取を控えて日本人の血圧が下がり、喫煙者も減ったことで、脳卒中が減ったわけです」(原田さん)

平均寿命が延びると心臓病とがんが増える

脳卒中の代わりに増えているのが、がんと心臓病だ。

「がんや心臓病は、65歳以上の高齢者に多い病気です。1965年には平均寿命が男性で約68歳だったので、多くの人が、がんや心臓病になる前に脳卒中で亡くなっていました。つまり、長生きする人が増えた結果、がんや心臓病が増えたわけです。特に75歳以上では、死亡原因の1位は心臓病をはじめとする循環器病です」と原田さんは説明する。

長生きする人が増えたのは素晴らしいが、そのために新たな問題が発生してきた。

ひとつは、健康寿命と平均寿命の差が大きく開いていることだ。2016年のデータでは、男性で8.84年、女性で12.35年と約10年の開きがある。せっかく長生きをしても、人生の最終段階で介護が必要になるなど、健康とは言えない期間が存在するのだ。

その原因の一つが、心不全や脳卒中などの循環器病だ。心不全は、心臓がくたびれてしまって機能不全になった状態をいう(詳しくは「後編」で説明)。心不全は悪くなったあと治療である程度回復するが、その後悪化と回復を繰り返し、だんだん弱っていく(下図)。

厚生労働省「循環器病対策の現状等について」などを基に編集部で作成

もう一つ問題なのは、入退院を繰り返したりすると、医療費が大幅に増えることだ。本人や家族がつらいだけでなく、多額の医療費が社会的な負担になる。

これらの問題を解決するには、多くの人ができるだけ健康長寿でいられるようにするしかない。

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循環器病と脳卒中の関係は?