VWゴルフ、8年ぶり刷新 スイッチ操作はまるでスマホ
コンパクトカーの世界的ベストセラーにしてライバルたちのベンチマーク(目標)となってきた「フォルクスワーゲン(VW) ゴルフ」。8年ぶりにモデルチェンジした最新型はどんなクルマに仕上がっているのだろうか。自動車ジャーナリストの小沢コージ氏が確かめた。
マクドナルドもビックリの「ド定番」
初代モデルが日本に入ってきたのは今から46年前の1975年。一時は27年連続輸入車販売ナンバーワンになるなど、日本で一番有名な輸入車のひとつであろうVWゴルフの最新型に乗ってきた。通称「ゴルフ8」、今回で実に8世代目だ。
セダンのように独立したトランクを持たないコンパクトハッチバックの世界的ベストセラーであり、2019年には歴代モデルの世界累計販売台数が3500万台に達するという大記録も打ち立てた。それだけに日本でもゴルフ8に注目している人は多いだろう。一番気になるのは、新型ゴルフが本当に進化しているのか、それとも進化していないのか、だ。
初代ゴルフは分かりやすくアヴァンギャルドだった。天才デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが描いたデザインは、当時としては驚くほど直線的でシンプル。斬新過ぎて当初はあまり売れなかったらしい。
しかし乗ってみると、アウトバーンで鍛えた高速性能とパッケージングが圧倒的に優れており、舌の肥えたクルマ好きを中心に売れていった。なにしろ1980年代から90年代にかけて販売されていた2代目「ゴルフII」に至っては、今も大型専門店が存在するほど。
ある意味、ゴルフは「マクドナルド」にも匹敵する勢いで日本に浸透していったのだ。いや日本だけじゃなく、世界でだが。
進化した部分、変わらない部分
ゴルフ8は、一見キープコンセプトだ。ボディー骨格は7代目ゴルフと基本的に共通のMQBプラットフォームで、全長4295 × 全幅1790 × 全高1475ミリメートル。サイズを細かく見ると、7代目より3センチメートル長くなった一方、幅は1センチメートル狭く、高さは5ミリメートル低くなっている。見た目は先代より少し伸びやかになり、ヘッドライトが直線グリルの下になる「上目遣い」マスクになったが、フォルムは相変わらず実用性重視。デザイン優先で極端にスーパーカー的になった同クラスの「マツダ3」とは好対照だ。
居住性もほぼ変わらず、前後シートとも身長176センチメートルの小沢がきちんと座ることができ、380リットルのラゲッジスペースを確保しているのも同じ。では果たして全長3センチメートルの拡大分がどこに使われたのかというと、ほとんどボンネット部分だ。ノーズが微妙に伸びたことにより、衝突時の歩行者保護性能が上がっているのだという。
なにより大きいのはパワートレインの変化だ。従来の1.4リッター直列4気筒ターボが1.5リッターに拡大されると同時に、1.2リッター直列4気筒ターボの代わりとして、1リッター直列3気筒ターボを用意。同時に両者に欧州式の48Vマイルドハイブリッドシステムが備わった。
結果、発進加速はモーターアシストを受けてスムーズになり、モード燃費も1リッター車がWLTCモードで18.6キロメートル/リッター、1.5リッター車が17.3キロメートル/リッターと向上。そういう意味では着実に進化している。
びっくりするほど進む「走るスマホ化」
メーター類や車内操作系の「スマートフォン化」も大幅に進んだ。運転席前は「デジタルコックピットプロ」と言われる10.25インチのワイドモニターが全車標準となり、スピード表示にしろ運転支援表示にしろ、未来的なグラフィックに。
センターディスプレーも10インチのタッチ式になり、エアコンやオーディオのメカスイッチをほぼ排除。ほとんどすべての操作をディスプレーと専用タッチスライダーで行えるようになり、慣れないと少々戸惑うほどの変化だ。
ゴルフ初の同一車線運転支援システム「トラベルアシスト」は全車標準装備で、ステアリングスイッチ1つで時速0〜210キロメートルまでの追従運転と車線キープが可能になっている。唯一の不満は、ややプラスチックっぽさが目立つようになったシフト回りくらいで、ある意味ゴルフは自慢の効率パッケージはそのままに、味わいや先進性をどんどん進化させているのだ。
では日本を代表するトヨタ「カローラ」と比べたとき、どちらのほうが本質的で先進的なクルマの電動化を先取りしているかと言われると、分からない。なぜならカローラのメインパワートレインは、トヨタが言うところのストロングハイブリッド。モーターのパワーは新型ゴルフの48Vマイルドハイブリッドより高出力で、なによりトヨタ方式はエンジンを完全停止し、モーターのみで加速する電気自動車(EV)走行も可能だ。あふれる電動感覚では、カローラはゴルフより上なのだ。
ただ一番の問題は、全体としてゴルフのほうが先進的に見えることである。いまはやりの電動化であり、EVシフト。中身はともかく、演出はドイツ車のほうがうまいと言えるかもしれない。
(編集協力 出雲井亨)
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