日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/11
密輸される爬虫類は、動かないようにテープで固定されていることが多い。多くは深刻な脱水症状や途中の極端な気温に苦しみ、目的地に着く頃にはほとんど意識がなかったり、死んでいたりする。2台のDVDプレーヤーに入れられていた5匹のトカゲはすべて生きたまま回収されたが、数匹は病気だったため安楽死させなければならなかった(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)

30年以上にわたってマツカサトカゲを研究しているオーストラリア・フリンダース大学生物多様性学部のマイク・ガードナー教授によると、配偶者の死を悼むトカゲもいるという。「つがいのメスを殺されたオスが、3日間もメスの死骸の周りをうろつき、舌を出したり、そっと押したりしていたことがありました」

一夫一婦制をとるマツカサトカゲは、愛好家の間では「ロマンチスト」とみなされ、プレミアム価格で取引されるため、密輸業者にとっても魅力的な獲物だ。つがいは単体の3倍以上の価格で取引されることもある。

ガードナー氏によると、マツカサトカゲはオーストラリアでは一般的なトカゲだが、乱獲の被害を受けやすいという。「ほかの爬虫類に比べて繁殖率が低く、1~2匹しか子を産まないこともあり、毎年子が生まれるとも限らないからです」(編注:マツカサトカゲは卵胎生)。そのため、性的に成熟した個体やつがいが密猟者によって野生から持ち去られると、地域の群れの遺伝的多様性が低下して弱体化するおそれがある。

マツカサトカゲの健康上の懸念はもう1つある。「マツカサトカゲインフル(bobtail flu)」と呼ばれる呼吸器症候群だ。病因はまだ完全には特定されていないものの、ニドウイルスの可能性が高いことが、16年11月に学術誌「Plos ONE」で報告された。トカゲで初めて見つかった新しいニドウイルスで、現時点ではオーストラリアでしか見られない。とはいえ、パースの野生動物治療センターで治療したマツカサトカゲの半数以上がこのウイルスに感染していたという。

この症候群は人間のインフルエンザに似た症状を引き起こし、治療せずに放置した場合の死亡率は「高い」。新しいニドウイルスがヒトに感染することを示す証拠はないが、ガードナー氏によると、野生動物の密売によってオーストラリアや海外のほかの動物への感染が広がるおそれがあるという。

巧妙な密輸業者の手口

マツカサトカゲは簡単に見つけられる。西オーストラリア州生物多様性・保全・誘致局の野生生物コンプライアンス・コーディネーターであるマシュー・スワン氏は、その入手のしやすさが「密猟ツーリズム」につながっていると説明する。

密輸カルテルは若い留学生を誘惑し、マツカサトカゲやアオジタトカゲやウォータードラゴンなどの爬虫類を調達する代わりに、休暇旅行の費用をすべて負担すると約束する。19年初頭には、メルボルンの簡易宿泊所に住んでいた台湾人男性が、数十匹の爬虫類の密売に関わったとして逮捕された。

巧妙な密猟シンジケートは、バンを借りてオーストラリアの広大な砂漠に入っていく。有罪になったある密猟者いわく、そこはキャンディーストアのようなものだ。そして、だれも見ていないところで手当たり次第に動物たちを採集する。

2018年、メルボルンの郵便仕分け施設で、海外に違法に送られようとしていたところを保護されたナメハダタマオヤモリ(Nephrurus levis)(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)
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ワシントン条約の保護対象に