検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

ダメもとで郵送される命 マツカサトカゲ密輸の悲惨

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

オーストラリアでは生きた在来動物の輸出がほぼ全面的に禁止されているにもかかわらず、毎年数千匹もの爬虫(はちゅう)類が、東京、ベルリン、ロサンゼルスなどの市場に郵送で密輸されてきた。このような密輸を防ぐため、オーストラリアのメルボルンにある郵便局の仕分け施設では、発送されるすべての郵便物がスキャンされている。

この時も、香港行きの荷物の中に密輸品らしきものを発見した検査官が、ビクトリア州の野生動物担当官に連絡をとった。

野生動物保護官が大きな缶の蓋を開けると、動物の排せつ物のような酸っぱいにおいがした。缶に入っていたのは、輪ゴムでとめられた黒い靴下だった。慎重に靴下をまくると、茶色い鱗(うろこ)をもつ小さな爬虫類が出てきた。マツカサトカゲだ。意識はほとんどなく、脱水症状もひどく、動かないように手足には粘着テープが巻かれていた。

マツカサトカゲ(Tiliqua rugosa)は全長30センチほどの、オーストラリアの南側でよく見られるトカゲだ。特に西オーストラリア州南東部のゴールドフィールズ地方に生息する黄土色の個体は、縞(しま)模様が特徴的で、コレクターの間で人気が高い。同じく西オーストラリア州のロットネスト島の亜種ロットネスマツカサトカゲ(Tiliqua rugosa konowi)は、そのまだら模様からとりわけ珍重されている。だが、個体数が少なく、西オーストラリア州では絶滅危惧種に指定されている。

2021年7月5日付で学術誌「Animal Conservation」に発表された論文によると、09年から19年の10年間に500匹以上のマツカサトカゲが押収されたという。この押収数は、マツカサトカゲがオーストラリア国内で最も多く取引されている動物の1つであることを意味している。

論文の筆頭著者で、アデレード大学の研究員であるサラ・ヘインリック氏は、押収された個体は違法に取引される野生動物のごく一部にすぎず、コレクターたちがより新しく興味深い爬虫類を求めて競い合い、それが取引の原動力になっていると指摘する。

オーストラリアには900種近い爬虫類が生息しており、そのうちの90%以上がオーストラリアの固有種で、ペット取引の対象となっている。オーストラリア農業・水資源・環境省のデータによると、18年から19年にかけて、オーストラリア当局が押収した野生動物の約90%が爬虫類だった。

「ロマンチスト」なトカゲ

マツカサトカゲの場合、その特異な配偶行動がコレクターの需要を高めている、とヘインリック氏は言う。彼らは毎年同じ相手とつがいになる。その関係は生涯にわたって続き、50年におよぶこともあるのだ。

30年以上にわたってマツカサトカゲを研究しているオーストラリア・フリンダース大学生物多様性学部のマイク・ガードナー教授によると、配偶者の死を悼むトカゲもいるという。「つがいのメスを殺されたオスが、3日間もメスの死骸の周りをうろつき、舌を出したり、そっと押したりしていたことがありました」

一夫一婦制をとるマツカサトカゲは、愛好家の間では「ロマンチスト」とみなされ、プレミアム価格で取引されるため、密輸業者にとっても魅力的な獲物だ。つがいは単体の3倍以上の価格で取引されることもある。

ガードナー氏によると、マツカサトカゲはオーストラリアでは一般的なトカゲだが、乱獲の被害を受けやすいという。「ほかの爬虫類に比べて繁殖率が低く、1~2匹しか子を産まないこともあり、毎年子が生まれるとも限らないからです」(編注:マツカサトカゲは卵胎生)。そのため、性的に成熟した個体やつがいが密猟者によって野生から持ち去られると、地域の群れの遺伝的多様性が低下して弱体化するおそれがある。

マツカサトカゲの健康上の懸念はもう1つある。「マツカサトカゲインフル(bobtail flu)」と呼ばれる呼吸器症候群だ。病因はまだ完全には特定されていないものの、ニドウイルスの可能性が高いことが、16年11月に学術誌「Plos ONE」で報告された。トカゲで初めて見つかった新しいニドウイルスで、現時点ではオーストラリアでしか見られない。とはいえ、パースの野生動物治療センターで治療したマツカサトカゲの半数以上がこのウイルスに感染していたという。

この症候群は人間のインフルエンザに似た症状を引き起こし、治療せずに放置した場合の死亡率は「高い」。新しいニドウイルスがヒトに感染することを示す証拠はないが、ガードナー氏によると、野生動物の密売によってオーストラリアや海外のほかの動物への感染が広がるおそれがあるという。

巧妙な密輸業者の手口

マツカサトカゲは簡単に見つけられる。西オーストラリア州生物多様性・保全・誘致局の野生生物コンプライアンス・コーディネーターであるマシュー・スワン氏は、その入手のしやすさが「密猟ツーリズム」につながっていると説明する。

密輸カルテルは若い留学生を誘惑し、マツカサトカゲやアオジタトカゲやウォータードラゴンなどの爬虫類を調達する代わりに、休暇旅行の費用をすべて負担すると約束する。19年初頭には、メルボルンの簡易宿泊所に住んでいた台湾人男性が、数十匹の爬虫類の密売に関わったとして逮捕された。

巧妙な密猟シンジケートは、バンを借りてオーストラリアの広大な砂漠に入っていく。有罪になったある密猟者いわく、そこはキャンディーストアのようなものだ。そして、だれも見ていないところで手当たり次第に動物たちを採集する。

爬虫類たちは、おもちゃや靴、炊飯器、フライヤーなど、あらゆる種類の容器に入れられ、郵便で海外に送られていく。空気も水も食べ物もないので、多くの動物は旅に耐えられない。途中で爪や手足を失ってしまうものもいる。しかし、マツカサトカゲの市場価格は数千ドル(数十万円)と高額なので、ごく一部が生き残れば、密輸業者は十分な利益を得ることができる。

コロナ禍に伴う国境閉鎖と各種の規制は、野生動物売買のサプライチェーンを分断し、オーストラリアから輸出される爬虫類の数は減ったと見られている。しかし、オーストラリア農業・水資源・環境省の上級スポークスマンによると、この不況はカルテルに動物を確保し蓄える時間を与えたという。

オーストラリアでは、必要なライセンスさえ取得すれば、爬虫類を合法的に飼育することができる。そのため当局は、密売人がマツカサトカゲをはじめとする爬虫類を違法に隠して飼育しているのではないかと疑っている。国連薬物犯罪事務所の内部報告書によれば、コロナ禍による規制が緩和されるにつれ、東南アジアでの野生動物の密輸が増加しはじめている。

ワシントン条約の保護対象に

野生動物の密猟を現場で監視するのは難しいため、オーストラリア政府は国境での検知に力を入れている。3月には、強力なスキャン能力と機械学習により野生動物を検出する世界初の3次元(3D)X線スキャン装置が、空港と郵便施設に設置された。シドニー工科大学では、密輸された動物をにおいで識別する「電子鼻」の開発も進められている。

マツカサトカゲの個体数は比較的多いため、世界の野生生物や野生生物製品の流通を規制するワシントン条約(CITES)は、このトカゲの国際的な取引を禁止していない。つまり、マツカサトカゲをオーストラリアから持ち出すことさえできれば、国内法的にも国際法的にも禁止されることなく、海外で堂々と売買できてしまうのだ。同じ問題は、ほかの多くの動物に当てはまる。

ヘインリック氏は、マツカサトカゲがワシントン条約の保護対象とされ、オーストラリア国外でも当局が押収できるようになればよいと考えている。オーストラリアの農業・水資源・環境省の担当者がナショナル ジオグラフィックに語ったところによると、同国は違法取引のリスクが高い125種以上の生物をワシントン条約の保護対象に推薦することを予定していて、マツカサトカゲもその中に含まれているという。

とはいえ、ワシントン条約への登録には平均10年という長い時間がかかる。その1年1年が勝負だ。オーストラリアは世界で最も生物種の絶滅率が高い国の1つであり、過去200年間に哺乳類の10%以上が絶滅し、現在も1800種の動植物が絶滅の危機に瀕している。

ガードナー氏は、「マツカサトカゲのような一般的な種を注意深く観察する必要があります」と言う。「彼らが危機に瀕しているなら、ほかの動物も危険にさらされる可能性が高いからです」

(文 JUSTIN MENEGUZZI、写真 DOUG GIMSY、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月17日付]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_