ダメもとで郵送される命 マツカサトカゲ密輸の悲惨

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/11
ナショナルジオグラフィック日本版

マツカサトカゲは、国際的な違法ペット取引において最も人気のある爬虫類の1つだ(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)

オーストラリアでは生きた在来動物の輸出がほぼ全面的に禁止されているにもかかわらず、毎年数千匹もの爬虫(はちゅう)類が、東京、ベルリン、ロサンゼルスなどの市場に郵送で密輸されてきた。このような密輸を防ぐため、オーストラリアのメルボルンにある郵便局の仕分け施設では、発送されるすべての郵便物がスキャンされている。

この時も、香港行きの荷物の中に密輸品らしきものを発見した検査官が、ビクトリア州の野生動物担当官に連絡をとった。

野生動物保護官が大きな缶の蓋を開けると、動物の排せつ物のような酸っぱいにおいがした。缶に入っていたのは、輪ゴムでとめられた黒い靴下だった。慎重に靴下をまくると、茶色い鱗(うろこ)をもつ小さな爬虫類が出てきた。マツカサトカゲだ。意識はほとんどなく、脱水症状もひどく、動かないように手足には粘着テープが巻かれていた。

マツカサトカゲ(Tiliqua rugosa)は全長30センチほどの、オーストラリアの南側でよく見られるトカゲだ。特に西オーストラリア州南東部のゴールドフィールズ地方に生息する黄土色の個体は、縞(しま)模様が特徴的で、コレクターの間で人気が高い。同じく西オーストラリア州のロットネスト島の亜種ロットネスマツカサトカゲ(Tiliqua rugosa konowi)は、そのまだら模様からとりわけ珍重されている。だが、個体数が少なく、西オーストラリア州では絶滅危惧種に指定されている。

2021年7月5日付で学術誌「Animal Conservation」に発表された論文によると、09年から19年の10年間に500匹以上のマツカサトカゲが押収されたという。この押収数は、マツカサトカゲがオーストラリア国内で最も多く取引されている動物の1つであることを意味している。

論文の筆頭著者で、アデレード大学の研究員であるサラ・ヘインリック氏は、押収された個体は違法に取引される野生動物のごく一部にすぎず、コレクターたちがより新しく興味深い爬虫類を求めて競い合い、それが取引の原動力になっていると指摘する。

2019年2月、メルボルンで押収されたマツカサトカゲの証拠写真を撮る上級森林野生生物担当官のアビー・スミス氏(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)

オーストラリアには900種近い爬虫類が生息しており、そのうちの90%以上がオーストラリアの固有種で、ペット取引の対象となっている。オーストラリア農業・水資源・環境省のデータによると、18年から19年にかけて、オーストラリア当局が押収した野生動物の約90%が爬虫類だった。

「ロマンチスト」なトカゲ

マツカサトカゲの場合、その特異な配偶行動がコレクターの需要を高めている、とヘインリック氏は言う。彼らは毎年同じ相手とつがいになる。その関係は生涯にわたって続き、50年におよぶこともあるのだ。

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