日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/12/10

戦闘機からグライダーへ

研究者たちは、別の生息地へ移動したことによる影響を排除するため、渡りをしない鳥に焦点を当てた。調査対象となった鳥類は、開発や伐採が進んでいない森林の下層で一生を過ごすため、生息地の劣化とも無関係と考えてよい。

では、なぜ体が小さく、翼が長く進化しているのだろうか?

研究者たちも、翼の長さの変化が鳥にどのような利点を与えているのかはわからないという。ただ、小型化することで、体を涼しく保ちやすくなるかもしれない。一般的に、体の小さい動物は、体積に対する表面積の割合が大きいため、体の大きな動物よりも早く熱を放散することができる。また、乾燥によって果物や昆虫などの食物が少なくなったために、体が小さくなったということもあるかもしれない。

今回の研究を主導した、米国の研究機関「Integral Ecology Research Center」の生態学者ヴィテク・ジャイリネク氏は、飛行機にたとえれば翼が長いことを説明できるかもしれないと言う。

「戦闘機を考えてみてください」とジャイリネク氏は言う。戦闘機は重くて翼が短い。「空中にとどまるには、とてつもない速さで進む必要があるため、大量のエネルギーを消費します。一方、グライダーは翼が長くて軽いので、空中にとどまるための力はほとんど必要ありません」

シェケルジオール氏も翼の長さの変化には驚いたと言い、留鳥が気候変動への対応として、なぜ、そしてどのように、翼を長く進化させているのかを理解するためには、他の熱帯地域でも研究がなされなければならないと指摘する。

ズアカアリツグミの翼を調べる研究者。今回の調査では、1980年以降、3分の1の種で翼が長くなっていることがわかった。翼が長いと滑空しやすくなり、飛行に必要なエネルギー量が減るからかもしれない(PHOTOGRAPHY COURTESY VITEK JIRINEC, LSU)

今回の結果は、2020年10月に学術誌「Ecology Letters」に発表された研究成果とも呼応する。1991年からアマゾンの鳥類を研究している米ルイジアナ州立大学の鳥類生態学者、フィリップ・ストーファー氏が中心となった研究だ。

2008年、ストーファー氏と学生たちは、過去のデータに記録された鳥が現在は存在しないことに気づいた。そこで彼らは、1980年代当時と同様のデータを収集し、熱帯雨林の地上に近い所に生息する鳥たちが減っていることを示した。

ジャイリネク氏らの研究は、「気候変動が熱帯に生息する鳥類に与える影響を調べた数少ない研究の1つです」とシェケルジオール氏は言う。「世界の鳥類学者や研究費のほとんどが温帯地域の先進国に集中しているため、鳥の大部分を占める熱帯の留鳥に関する研究はほとんど行われていません」

小さな鳥の変化は大きな問題

熱帯雨林の鳥といえば、コンゴウインコなどのカラフルな種を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、ほとんどは、「何の変哲もない、ぼんやりとした色の鳥たちです」とジャイリネク氏は言う。これらの鳥は、「森林が乱されることに非常に敏感であるため、手つかずのアマゾンを象徴する生物と言えます」

小さく繊細で渡りもしない鳥の、わずかな変化がなぜ問題になるのだろうか。ジャイリネク氏は次のように指摘する。私たちの行動が、地球の裏側にいる動物の大きさや形を変えるなど、目には見えづらい結果をもたらすことがあるのだと。

「私たちはアマゾンのことを、陸上の生物多様性の象徴だと思っています。そこは生命に満ちた神秘的な場所で、森林は破壊されておらず、人の手は加えられていないのだと」。ジャイリネク氏は語る。「しかし、必ずしもそうではないのです」

(文 LIZ LANGLEY、訳 桜木敬子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年11月18日付]