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「報酬系」は移動する生き物に共通して備わる仕組み

――ついスマホを手に取り、誰かからメッセージが来ていないかとわくわくすることや、ウェブ記事のリンクをたどって読みふけってしまう、ということに罪悪感を抱いていましたが、「報酬系は日常で当たり前に活性化している。ケーキを食べることと同じ」と言われると、ほっとしました。

篠原さん 報酬系はやる気を支える仕組みそのものです。特に、やる気に関係する、やる気の中核といわれる脳の「線条体」は、昆虫でも、動物でも、移動する生き物なら全てが持っている仕組みです。「あっちに移動したほうが生き残る確率が高くなるぞ」と活動させるモチベーションとして線条体が発火する。私たちも、うれしいことがあるかも、褒められるかも、と思うとモチベーションが高まりますよね。子どもはお母さんに褒められることを期待して、「本当はうろうろしたいけどじっと座ってごはんを食べよう」と思います。教育の根底にも報酬系があります。なのに、報酬系が活性化させるメカニズムだけ取り出して「病的だ」というのは話がおかしいと私は思っています。

――ITの経営者が自分の子どもにはタブレットを使用する時間を制限させている、などという話を聞くと、「ああ、やっぱり自分たちはだまされて便利なツールを与えられていたんだ」などと解釈しそうになります。

篠原さん それが本当だとしても、たった一人の事例を取り出しただけの「ケーススタディ」ですよ。「私は毎日○○を飲んで1カ月で3キロやせました」と同じレベル、エビデンスの信頼度で言うととても低い。ITのCEOが言っていることだからというバイアス(思い込み)が影響していますね。

でも、そういった言説をもとに信じてしまうのは、前回(「詐欺になぜだまされる 脳の構造と対策、専門家が解説」)でもお話ししたように、人間の脳のワーキングメモリ、つまり脳のメモ帳が同時に3~4つのことしか処理できないからです。「誰それが」「こういう意図で」「こういうことをした」。このぐらいの情報が最も脳の負担なく、得心しやすいのです。

ただ、ゲームにせよスマホにせよ、こうした「報酬系」「依存」という言葉を結びつける情報は注目度も高いでしょうから、今後も出てくるはずです。しかし、そのときに「日常生活に重大な破綻をきたすレベルで、しかも長期間続いているのか」という基本に立ち返って冷静に受け止められるといいですね。

――今回の先生のお話を踏まえ、最後にスマホとのつきあい方のコツを教えてください。

篠原さん 結論から言うと、コツなんかありません! 安心してください。繰り返しますが、日常生活に問題が生じていれば注意が必要ですが、たいがい大丈夫です。いっときはまっても、1カ月もちませんから。

報酬系のお話をしましたが、子どもだって親に褒められるからといってずっと依存的に特定の行動をし続ける、なんてことはありません。飽きるものです。

『鬼滅の刃』に過度にはまっても、はまっている最中は「このはまり方は我ながら危険かもしれない」なんて思っても1年以上はそのエネルギーは続かない。人は飽きる生き物です。むしろスマホの機能をかしこく使用して日常にプラスに役立てているのなら、何の問題もありません。

スマホで学習し、スマホで仕事のやりとりもする時代。わからないことを検索したり、ひらめいたことを記録したりするメモ帳代わりに使うなど、便利に使いこなしていきましょう。

◇   ◇   ◇

次回は、「苦手なこと」を脳からのアプローチで乗り越えていく方法について聞く。

(ライター 柳本 操)

篠原菊紀さん
公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科教授。医療介護・健康工学研究部門長。専門は脳科学、応用健康科学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の場面における脳活動を調べている。ドーパミン神経系の特徴を利用し遊技機のもたらす快感を量的に計測したり、ギャンブル障害・ゲーム障害の実態調査や予防・ケア、脳トレーニング、AI(人工知能)研究など、ヒトの脳のメカニズムを探求する。

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