
「目はどこにあるの?」
ルーマニアの地方で育ったニガ氏は、子どもの頃から昆虫が好きだったが、その興味が再燃したのは数年前のある出来事がきっかけだった。英ロンドンの公園で、アリを見た娘に「アリの目はどこにあるの?」と尋ねられたのだ。
ニガ氏はうまく答えられなかった。そこで、ルーマニアで警察官をしていたころに身に付けた写真撮影の技術を、久しぶりに発揮することにした(ニガ氏は現在、ロンドンで英語と数学の教師をしている)。
今なら、娘の質問に自信を持って答えることができる。なかにはグンタイアリのように、ほとんど目が見えず、嗅覚と触覚で進路を知るアリもいる。逆にメダマハネアリ(Gigantiops destructor)のように、大きな目が頭の大部分を占めているようなアリもいる。この大きな目は、アマゾンの熱帯雨林を跳ね回りながら、エサとなる花の蜜や小さな節足動物を探すのに役立っていると考えられる。サハラギンアリは、前額部の中央にも光を検出する3つの「目」を持っている。

超接写でわかったこと
これらの超接近写真を撮るために、ニガ氏はアリの頭部を部位ごとに撮影する装置をロンドンの自宅に作り上げた。1つの頭部の写真を完成させるために、ときには最大20倍の倍率で1000枚以上の写真を撮ることもある。通常、撮影に使うのは死んでいるアリだが、生きていたときの姿に近づけるため、乾燥した標本を水で戻してから撮影することもある。標本は世界中にいる数十人の協力者から、通常は郵便で送られてくる。
すべての写真を撮り終えると、編集ソフトを使ってそれらをつなぎ合わせる。結果に驚かされることも多いと氏は言う。例えば、あまり派手だとは思っていなかったトゲアリ属(Polyrhachis)のアリは、高倍率の画像を見ると、ちらちらと光る金色の毛で覆われていることがわかった。
アリの研究者で、本書の文章を担当したエレナー・スパイサー・ライス氏は、多くのアリが玉虫色で光沢のある金属的な外骨格を持つことに驚いたと言う。この色合いが、捕食者の目をごまかすのに役立つのではないかと考える科学者もいる。
