
ザトウクジラの復活
崩壊する氷河に負けないくらい壮観なのが、海から飛び出すザトウクジラだ。このアクロバティックな光景は忘れることができない。重さ30トンを超えるクジラが、クルーズ船を偵察するかのように、水面から体を垂直に立てて最大30秒ほど「スパイホッピング」し、再び海に戻っていく。横向きに回転しながら海から飛び出し、腹から水平に着水して、とどろくような水しぶきを上げることもある。
ザトウクジラは「バブルネットフィーディング」と呼ばれる狩りの手法でも知られる。小魚の群れの下に深く潜り、複数の個体で円を描くように泳ぎながら、泡を出して獲物を追い込む。ジェットバスに魚を閉じ込めるようなイメージだ。その後、クジラたちは口を開けて一斉に上昇し、ひげ板(ザトウクジラは歯がない)で魚をこし取りながら水を放出する。一度に数百匹の小魚をのみ込み、一日に最大0.5トンを食べる。
国立公園局は1985年からグレイシャー湾のクジラの個体数を調べている。交尾や出産のためにハワイ州やメキシコの海で冬を過ごした後、毎年春になると公園にやって来る数十頭を、生物学者たちは識別できるようになった。40年以上前からグレイシャー湾に来ている個体も複数いる。
アラスカのクルーズシーズンは5~9月だが、今年はパンデミックの影響で延期され、2021年7月にようやく再開された。ただし、シアトルを出航した船がカナダに立ち寄ることはない(2021年9月現在、カナダはクルーズ船を受け入れていない)。
多くのクルーズ会社は米疾病対策センター(CDC)の新しい要件に従い、ワクチン接種の有無にかかわらず、検査で陰性が証明されたことを乗船の条件としている。アラスカ州ではデルタ株の感染者数が増加しているため、乗客全員が乗船、上陸時にマスクを着用する必要がある。また、一部のクルーズ会社はワクチン接種の証明を求めている。
(文 JON WATERMAN、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年9月19日付]