アラスカの氷河を襲う温暖化 救いはザトウクジラ復活

日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/10/13
ナショナルジオグラフィック日本版

グレイシャーベイ国立公園では、カヤックやクルーズ船で氷河を探索できる。氷河は現在、気候変動の脅威にさらされている(PHOTOGRAPH BY WOLFGANG KAEHLER, LIGHTROCKET/GETTY IMAGES)

米アラスカ州南東部の道なき土地に、1045の氷河で知られる国立公園がある。グレイシャーベイ国立公園だ。公園の27%を氷河が覆っており、海に流れ込む氷河(潮間氷河)も7つある。氷が砕け落ちるそのドラマチックな光景が、クルーズ船の乗客を楽しませている。

しかし、公園名物の氷河は、気候変動の影響をまともに受けている。無数にある氷河のほとんどが縮小しており、かつて湾の入り口まで延びていた氷河はすでに100キロ以上も後退している。同じくアラスカ南東部にある州都ジュノー周辺では、1949年から2016年の間に、夏の平均気温がセ氏で約1.3度、冬の平均気温が同約4度上昇した。

一方で歓迎すべきこともある。かつて激減していたザトウクジラは、1966年に北太平洋で捕鯨が禁止されて以降、着実に個体数を増やしている。先住民の歴史と文化が尊重されるようになったことも大きな前進だ。

太平洋プレートと北米プレートの境界にあたるこの地域は、過去150年の間にいくつもの大地震に見舞われてきた。震源は全長約200キロのフェアウェザー断層。1899年には、アラスカ州南東部の海岸を丸ごと揺らす地震が発生。ミューア氷河が粉々に砕けて海を覆い、その後の10年間、蒸気船が通過できなくなった。

1958年7月9日にはマグニチュード7.9の地震が発生した。フェアウェザー断層沿いで、水平方向に約6.5メートル、垂直方向に約1メートル大地が隆起した。震源から約160キロ離れたアラスカ州ヤクタット郊外の湾では、カンタアック島が約30メートル水没し、ベリーを摘んでいた3人が犠牲になった。震源から約20キロのリツヤ氷河では地滑りが発生。9000万トンの岩石がリツヤ湾になだれ込み、同時に氷河も崩壊、前代未聞の巨大な津波が発生した。

氷に覆われたグレイシャー湾を航行する蒸気船「クイーン」号。1900年撮影(THE PRINT COLLECTOR/GETTY IMAGES)
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土地を失った先住民の歴史