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稽古しながら気づいたのですが、飛行士と王子の関係はミュージカル『エリザべート』のエリザベートとトートの関係に似ていると思いました。『エリザべート』では、エリザベートが死にたくなったり、自暴自棄になったりしたときに、黄泉の帝王トートが死の象徴として現れます。『リトルプリンス』では、飛行士が砂漠に不時着してピンチになったときに王子が現れて、生きる方向へと導いてくれます。死と生という正反対の存在ですけど、どちらも本人の中にもともとあったものが形として現れてくるという点では、構造的に似ています。それだけファンタジーの要素が強いということでもあるのでしょう。

僕はキツネの役も演じます。音楽座でも飛行士とキツネを別の人がやったバージョンもあって、必ずしも1人2役ではなかったそうですが、今回は僕がやりたいと希望しました。飛行士は王子から教えてもらう立場だけど、キツネは王子にいろんなことを教える立場です。どちらの立場からも王子に関われるのは面白いと思ったし、いいセリフも多いので。「肝心なものは目に見えない」という有名なセリフもキツネの言葉です。

言葉のひとつひとつをどう解釈するか

いろんな解釈や捉え方ができるのがこの作品の魅力ですが、今回は新型コロナウイルス禍を経て、また違った受け止め方ができると感じています。先ほどの「肝心なものは目に見えない」というセリフにしても、まさに今、コロナという目に見えないものが世界を変えてしまった状況なので。このセリフって、「本当に良いものは見えないんだよ」という、ポジティブな意味に取られやすいと思うんです。けど、肝心なものとは、悪いものだったり、気をつけないといけないものかもしれない。劇中でキツネが言うのは、「自分はニワトリをいつも追い掛けているけど、ニワトリばかり見ていると、気づいたら狩人が自分を狙っている。だから、物事は心で見なくちゃいけないよ」ということ。

良い方も悪い方もどっちの意味もあり得るんだ、というのが僕の気づきで、今あらためてこの言葉の本当の意味について考えるのは、すごく大事なことだと思っています。これだけじゃなくて、本当にいいセリフが散りばめられている作品です。その言葉のひとつひとつをどう解釈するかに向き合いながら、稽古を重ねています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。次回の第108回は第4土曜に変更となり、1月22日(土)の予定です。


夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)