日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/14

肺炎に似た気嚢炎は、細菌や真菌、ウイルスが原因で起こる気嚢の炎症または感染症だ。現代のニワトリも、衛生状態が悪い場所で飼育していると、大腸菌によって気嚢炎にかかることがある。

米ワシントン州立大学の古生物学者シンシア・フォー氏は、今回の研究には参加していないが、「論文は、気嚢炎であるという有力な状況証拠を提示しています」と話す。生きている動物でも確実な診断を下すことは難しいが、恐竜の骨も現生動物も、病気に対しては似たような反応を示すだろうと考えられる。

「現生動物の骨が病気にどう反応するかについてわかっていることを太古の動物にも当てはめて、論理的な結論を導き出すことはできます」と、フォー氏は言う。

同情心を強くかきたてる化石

気嚢炎を起こした現生鳥類の観察結果から、ドリーも様々な症状を呈していただろうと、ウッドラフ氏らは推測している。「せきや呼吸困難、倦怠(けんたい)感、熱、くしゃみ、下痢などは全て、現生鳥類に見られる症状です」

しかも、ドリーにとっては、これが命取りになった可能性もある。実際の死因が何であったかを知ることはできないものの、ディプロドクス科の恐竜は群れで移動し、病気にかかると群れに後れを取ったり、脱落することもあったはずだ。1頭だけになった個体は、生存の可能性が著しく低下し、捕食者にも狙われやすくなるだろう。

他にも個々の恐竜がどんな病気にかかっていたかを知ることによって、恐竜の行動に関してこれまで知られていなかった側面を理解できるのではと、ピーターソン氏は期待する。

ウルフ氏によると、鳥類でも狭いところに押し込められ、排せつ物や卵が散乱しているような環境では、細菌が繁殖しやすく、気嚢炎にかかりやすくなるという。またウッドラフ氏も、ドリーが属する竜脚類は、集団で営巣していたことが知られ、環境によっては営巣地に感染が広がっていた可能性は高いと指摘する。

ところで、病気にかかっていたことを示すドリーの骨は、過去との独特な結びつきをも感じさせる。恐竜の化石にかみ傷や骨折の痕があったとしても取り立ててどうということはないが、呼吸器疾患というとなぜか親近感が湧くものだと、ウッドラフ氏は言う。

「ドリーのような症状に苦しめられて惨めな思いをした経験は誰にでもあると思います。ここまで同情心をかきたてる化石には、これまで出会ったことがありません」

(文 RILEY BLACK、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月17日付]