日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/12
1960年、スイス人海洋学者のジャック・ピカール氏と米国海軍のドン・ウォルシュ大尉が、米海軍の深海用潜水艇「トリエステ」(写真右上)に乗り、世界で初めて海の最深部に到達した。このとき、チャレンジャー海淵の深さは1万911メートルとされた。

マーク3の崩壊によって発生した衝撃波は、海面と海底を何度も往復した。これが、正確な深さを測るカギとなった。反響音のうち1つの音響特性をテンプレートにして、ロランジャー氏とその研究チームは、最初の大きな破裂音とその後の反射音の到達時間を特定した。次に、深さによって異なる水温、水圧、塩分濃度に合わせて音の速度を調節し、様々な音波の通り道をモデル化した。

その結果、最終的に、チャレンジャー海淵の深さは1万983メートル(±6メートル)であると計算した。

音の魔法

これまでも、チャレンジャー海淵の深さは、様々な方法を使って計算されてきた。技術の進歩に伴って、この先も新たな計算結果が出てくることだろう。21年にも別の研究チームが、潜水艇を使って集めたデータを基に、1万935メートルという数字をはじき出した。どの手法にも、それぞれ欠点や不確定要素があるため、多少の誤差は避けられない。

2012年3月26日、ナショナル ジオグラフィック・エクスプローラーで映画監督のジェームズ・キャメロン氏は、自らが共同設計した潜水艇「ディープシー・チャレンジャー」に乗り、チャレンジャー海淵への世界初の単独潜航を成功させた。写真は、水深8000メートルへの試験潜航に出発するときのもの。ナショナル ジオグラフィックとパートナーシップを組んで行われたこの単独潜航で、キャメロン氏は撮影と、海底でのサンプル採取を行った(PHOTOGRAPH BY MARK THIESSEN, NATGEO IMAGE COLLECTION)

正確な深さがどうであれ、計測に挑戦すること自体が、人々の興味をひきつけてやまない。その過程において、どんな不思議な発見がもたらされるだろうか。マーク3の破裂事故も、予期していなかった出来事であり、研究者はこれによって予想外のデータを手に入れることができた。

また、海中音の記録は、ほとんどの人が一生訪れることのできない場所を、全ての人に見せてくれると、バークレー氏は語る。まるで、グランドキャニオンに行ってやまびこに耳を澄ますように、「マリアナ海溝への旅を疑似体験できるんです。考えただけでわくわくします」

ところで、マーク2とマーク3を海底に送り込んだそもそもの目的だが、バークレー氏の研究チームはついにそれを達成した。21年に、チームが降ろした機器は地球の最深部に到達し、4時間にわたって、海の底で奏でられる穏やかなリズムを録音することに成功したのだ。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月15日付]