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マリアナ海溝、海中録音の実験ミスで思わぬ発見

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ナショナルジオグラフィック日本版

それは、何かが起こったことを知らせる最初のサインだった。2014年12月、調査船ファルコーに乗船していたデビッド・バークレー氏が、船体に付けた水中マイクの音をヘッドホンで聞いていると、打ち付ける波の音に混じってかすかな破裂音がした。

船の下の海中では、2台の科学機器が、深い太平洋の底を目指してゆっくりと下降しているはずだった。そこは、マリアナ海溝の水深1万メートルを超えるチャレンジャー海淵。世界最深の海だ。

カナダのダルハウジー大学で准教授を務めるバークレー氏は、米スクリップス海洋研究所の大学院生だったときに、海中の音を録音する小型で安価な機械を開発するプロジェクトを始めた。海中の音を調べることで、海の構造がわかるだけでなく、クジラや潜水艦が発する独特のメロディーを聞き分けられるようになるかもしれない。

2台の機器がチャレンジャー海淵へ下降して海中音を録音し、また戻って来るまでの時間は、約9時間と予測されていた。しかし、予定の時刻に戻ってきたのは1台だけだった。

もう1台は、例の破裂音が聞こえたときに破壊されていた。電子機器を保護していた直径約40センチのガラス球が崩壊したのだ。残念ながらこの機器は失われたが、バークレー氏の研究チームは、その後、戻ってきた方の機器に録音されていた破裂音の音波を使って、チャレンジャー海淵の深さを新たに計算することに成功した。

チャレンジャー海淵の深さは、これまでも何度か計測されてきた。それらの計測値はたいてい1万900メートルから1万950メートルの間に収まっていたが、今回の数値はもっと深い、1万983メートルだった。この論文は、21年4月19日付で、海洋学の学術誌「Oceanography」に掲載された。

戻ってきたのは1台だけ

バークレー氏が開発した2台の機器は、それぞれ「ディープサウンド・マーク2」と「ディープサウンド・マーク3」と名付けられた。マーク2は水深9000メートルまで下降してそこにとどまり、海中の音を録音してから戻ってくるようにプログラムされていた。一方、マーク3は海底まで到達するはずだった。しかし、いったん海の中に沈めて姿が見えなくなると、後はどういう状況になっているのか追跡する術はほとんどなかった。

そこでバークレー氏は、あらかじめ船に水中マイクを取り付け、ここからも音を録音し、時折ヘッドホンで確認することにした。例の破裂音が聞こえたのは、そのときだった。その夜、まだ何が起こったのかわからないまま、戻ってくるはずの機器を探して水面に目を凝らした。しかし、波間に浮かんでいたのは1台だけだった。

戻ってきたマーク2を船に引き上げ、記録された音を再生してみると、静かな海中に突然、マーク3の破裂音が鳴り響いていた。小さな浮きの破損をきっかけに、連鎖的に破壊が起きたのではないかと、バークレー氏は考えている。

圧倒的な水圧でガラス球が崩壊すると、中の空気は解放され、無数の小さな泡となった。これらの音が全て海中を伝って海面まで届き、跳ね返ってマーク2のところまで戻ってきた。

マーク3がもはや絶望的であることはすぐにわかったと、バークレー氏は語る。

破裂から25秒後のかすかな音

それから6年後の20年、米ウッズホール海洋研究所の海洋音響学者であるスコット・ロランジャー氏は、机に座って当時の録音ファイルを聞いていた。パンデミックのせいで現場へ出ての調査が減っていたため、過去に録音されたものから何か有益な情報が得られないかと考えたのだ。すると、破裂による当初の混乱が収まった後、いくつかのはっきりした反響音がした。音は少しずつ小さくなり、やがて聞こえなくなった。

停止ボタンを押すのも忘れてキーボードをたたいていたロランジャー氏は、そのとき奇妙な音を聞いた。破裂から約25秒後、再びかすかな音が入ってきた。その反響音は、海面と海底の最深部に何度も跳ね返り、40キロ近い距離を伝わっていた。ロランジャー氏は仰天した。「全く予想していませんでした」

コウモリが暗闇で超音波を利用して、周囲の環境と自分の位置を知るように、音波の測定は、海底の地形を調べる最も一般的な方法のひとつだ。海面近くで爆発物を爆発させて、海底で跳ね返った音を測定するという手法は以前から取られていたが、最近では圧縮空気など、よりコントロールしやすい方法で音を作るようになっていると、ハワイ地球物理学・惑星学研究所所属で、海底地形図製作の専門家マーク・ロンスタッド氏は説明する。

海が深ければ深いほど、激しく低い音でなければ、海底まで届かない。14年のマーク3の事故はまさに、そのような激しい音を発生させるものだった。ガラスの球体が水圧によって崩壊すれば、かなりの爆音になるだろうと、ロンスタッド氏は言う。氏は、今回の研究チームの一員ではないが、第2次世界大戦のミッドウェー海戦で沈没した船の捜索に参加したことがある。ナショナル ジオグラフィックが資金を提供したこの調査でも、遠隔操作していた潜水艇のガラス球が内部崩壊して混乱を引き起こした。「あのときは、まるでダイナマイトが爆発したようだったと聞きました」

マーク3の崩壊によって発生した衝撃波は、海面と海底を何度も往復した。これが、正確な深さを測るカギとなった。反響音のうち1つの音響特性をテンプレートにして、ロランジャー氏とその研究チームは、最初の大きな破裂音とその後の反射音の到達時間を特定した。次に、深さによって異なる水温、水圧、塩分濃度に合わせて音の速度を調節し、様々な音波の通り道をモデル化した。

その結果、最終的に、チャレンジャー海淵の深さは1万983メートル(±6メートル)であると計算した。

音の魔法

これまでも、チャレンジャー海淵の深さは、様々な方法を使って計算されてきた。技術の進歩に伴って、この先も新たな計算結果が出てくることだろう。21年にも別の研究チームが、潜水艇を使って集めたデータを基に、1万935メートルという数字をはじき出した。どの手法にも、それぞれ欠点や不確定要素があるため、多少の誤差は避けられない。

正確な深さがどうであれ、計測に挑戦すること自体が、人々の興味をひきつけてやまない。その過程において、どんな不思議な発見がもたらされるだろうか。マーク3の破裂事故も、予期していなかった出来事であり、研究者はこれによって予想外のデータを手に入れることができた。

また、海中音の記録は、ほとんどの人が一生訪れることのできない場所を、全ての人に見せてくれると、バークレー氏は語る。まるで、グランドキャニオンに行ってやまびこに耳を澄ますように、「マリアナ海溝への旅を疑似体験できるんです。考えただけでわくわくします」

ところで、マーク2とマーク3を海底に送り込んだそもそもの目的だが、バークレー氏の研究チームはついにそれを達成した。21年に、チームが降ろした機器は地球の最深部に到達し、4時間にわたって、海の底で奏でられる穏やかなリズムを録音することに成功したのだ。

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2022年2月15日付]

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