日経ナショナル ジオグラフィック社

2022/3/11

カルティニー氏はカーボナードの起源について、「簡単に言えば150年前と同じ状況です」と述べている。しかも母岩が存在しないため、カーボナードそのものの奇妙な特徴から手掛かりを探すしかない。だが、それぞれの特徴が、異なる歴史を伝えているように見える。

「謎」を意味するその名にふさわしく、エニグマがどこで採掘されたのかを正確に知る者もいない。1990年代に匿名の人物に購入された当時、出品者の代理人によれば、このカーボナードは推定800カラット超で、160グラムを上回っていたという。その後、特徴的な55面体にカットされるが、石が非常に硬く、3年がかりの作業となった。

エニグマの55面体は、中東の護符である手のひらのシンボル「ハムサ」からインスピレーションを得たものだ(PHOTOGRAPH BY SOTHEBY'S)

隕石かマントルか

ダイヤモンドは地球内部の高圧下で結晶化する際、深紅のガーネットや緑のカンラン石など、マントルの鉱物を内包することがある。しかし、カーボナードにはこれらの鉱物が含まれていない。その代わり、隕石に広く見られるオスボルナイト(窒化チタン)など、地球外起源を思わせる金属化合物が確認されている。

つまりカーボナードは、炭素を多く含む恒星や惑星で形成され、地球に隕石(いんせき)が降り注いでいた40億~38億年前に隕石とともに運ばれてきたのかもしれない。

ダイヤモンドを専門とする米フロリダ国際大学の地球物理学者スティーブン・ハガティー氏は1996年、この地球外起源説を米地球物理学連合(AGU)の会議で提唱した。氏は今も、カーボナードがもつ多くの奇妙さを論理的に説明できるのはこの説だけだと主張し続けている。

「誰かが科学的にしっかりした代案を出してくれれば、私は心から歓迎します」とハガティー氏は述べている。

ハガティー氏の説を支持していない科学者もいる。ペンシルベニア州立大学のヒーニー氏は1990年代にカーボナードの研究を始めた当初、隕石説は論理的だと思った。しかし、カーボナードを分析すればするほど、地球のマントルで形成された可能性が高いと考えるようになった。

ヒーニー氏はその理由として、キンバーライトのダイヤモンドからも同じ地球外由来を思わせる金属化合物の一部が発見されている点を指摘する。また、まれではあるものの、オスボルナイトは地球のマントル深部で形成された鉱物や岩石に含まれていることもある。

しかし、本当の意味でヒーニー氏の考えを変えたのは、カーボナードの多くが非常に大きいという点だ。ダイヤモンドは隕石からも実際に発見されており、隕石の衝突時の高温高圧によって形成されるが、こうした地球外由来の石は例外なく小さい。

「宝石とは似ても似つきません」とカルティニー氏は話す。「それでは何も作ることができないのですから」

とはいえ、マントル説にも謎は残る。カーボナードには、どれもスポンジのように穴が無数に開いているという不可解な特徴がある。地球のダイヤモンドの大半は、地下約160キロより深い場所の高温高圧下で形成されるが、そのような条件では細かい穴が維持できない。

「穴が崩壊してしまいます」と話すハガティー氏は、地球の地下ではなく、死にゆく星の表面で炭素が融解してガスが抜け、細かい穴が形成されたのではないかと説明した。

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奇妙な化学的性質