ハンコック・シェーカービレッジの鍛冶場には、家具や農機具の製作に使用された木工用具や金属加工用具が展示されている(PHOTOGRAPH BY JOHN GREIM, LIGHTROCKET/GETTY IMAGES)

現在、この博物館のコレクションは1万8000点にのぼるが、展示スペースが狭いため、見学には予約が必要だ。しかし、2024年には、新たに1800万ドル(約21億円)を投じて、ビクトリア朝様式のホテルを改装・増築し、シェーカーの歴史や芸術やデザインにもたらした影響などを紹介する計画だ。

エグゼクティブディレクターのレイシー・シュッツ氏は、左右の足の長さが違う女性のために作られた厚底の靴や19世紀のロッキングチェアを改造した車椅子など希少な工芸品を紹介したい、と楽しみにしている。「シェーカー教徒の本質的な価値観には、身体能力や年齢に関わりなく、だれもが十分に参加できるコミュニティーの姿がありました」とシュッツ氏は話している。また、シェーカー博物館の研究・収蔵ディレクターであるジェリー・グラント氏は、「コミュニティーを良くするために、自分のことを横に置く生き方は難しいことです。ただ、今の私たちに欠けていることも確かです」と彼は言う。

現代人にとってのシェーカーとは

マサチューセッツ州バークシャーの州境を越えて27キロ、ハンコック・シェーカービレッジには、750エーカー(303.5万平方メートル)の広大な平原に20の見事な歴史的建造物が点在する。その一部は、今でも農場として使用されている。真っ先に目につくのは、1826年に建造された堂々たる石造りの円形バーン(納屋)だ。上部には淡い黄色をした円形の塔があり、内部は階層構造になっている。

ハンコック・シェーカービレッジ内の1826年に建てられた「ラウンドストーン・バーン」は、シェーカー教徒の簡素ながらも洗練された建築技術の好例(PHOTOGRAPH BY TONY LUONG, THE NEW YORK TIMES/REDUX)

2021年の夏、ビレッジの「サウスファミリー」サイトへの道が整備され、60年ぶりに、メープルシュガー小屋や新たな階層式バーンなど、新たに6つの建物の基礎部分が確認された。

ビレッジの現存する建物内では、シェーカー教徒の生活の歴史と、現代の芸術家やデザイナーが刺激を受けてきたことが展示から見てとれる。

2万2000点に及ぶ古来のコレクションのなかには、無駄のないデザインが美しい椅子、使い勝手のいい農機具、女性のフード付きマントなどがある。この際立ったセンスのマントは、19世紀の流行にも取り入れられた。そして、現代美術家のジェームス・タレル氏の陶芸やファッションブランドのトリー・バーチのアパレルなど、シェーカーの影響を受けたデザインの作品は往々にして現れ、良質でシンプルな品を追求するシェーカー教徒の情熱が今日に受け継がれていることを伝えている。

シェーカー教徒が残したのは、品物や建築に関する技術への多大な影響にとどまらない。社会的な一体性、平等、持続可能性、コミュニティーに対する先進的な価値観は、現代社会に学びを提示している。「現代の私たちも、これらの問題に取り組んでいます。ですから、こうした問題を正しく理解しようと努力した小さな集団の歴史を振り返ることは、非常に大きな意味があるのです」とシュッツ氏は話している。

(文 ROBIN CATALANO、訳 稲永浩子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年3月15日付]