
アイルランドでは少なくとも400年前から、クリスマスシーズンになるとわらの仮面をかぶった人々「ママー」が家々を回り、芝居や詩、歌、踊りなどを披露してきた。1900年代半ば、北アイルランド問題が勃発したこともあり、この風習はほぼ消滅したものの、近年、再び活気を取り戻している。
ママーによるパフォーマンス「マミング」が復活したのは、国中でクラブが結成され、クリスマス前にショーを行っているおかげだ。その一つが、リートリム県のアーティスト、エドウィナ・グキアン氏が7年前に地元で立ち上げた巨大プロジェクト。地元の農家から集めたわらで仮面やドレスを手づくりし、12月になると、300人以上の若いママーが家々を訪ね、グループでパフォーマンスを披露している。最後に、わらの衣装をたき火で燃やし、イベントはクライマックスを迎える。
マミングの起源は、この地にキリスト教が広まる以前にさかのぼると広く信じられているが、そうした起源にまつわる物語は事実より言い伝えに近いという。
いずれにせよ、マミングは若い世代を昔ながらの伝統につなげる役割を果たしているとグキアン氏は話す。また、マミングを行う集団は、歴史的には若い男性で構成されていたが、現在はアイルランド社会のあらゆる人々が参加している。
パフォーマンスを見たい旅行者はリートリムに向かうといい。緑の森、透明な湖、結束の固い農村で知られるアイルランド北西部ののどかな地域だ。

歌や寸劇を披露、お金を集める
ママー(mummer)という語はゲルマン語が起源とされ、この伝統が定着したアイルランド、英国、スコットランド、カナダなどでは、仮面を付けた役者を指す言葉として使われている。アイルランド国立博物館の元学芸員で、『Straw, Hay and Rushes in Irish Folk Tradition(アイルランドの伝承におけるわら、干し草、イグサ)』の著書もあるアン・オダウド氏によれば、この風習は1600年代、英国からアイルランドに伝わったという。
その後、何世紀にもわたり、マミングはアイルランドの北半分と東海岸の一部で広く行われていた。何に扮するかや寸劇のテーマはアイルランド風にアレンジされた。歴史的には、男性だけの一座が聖パトリックのようなアイルランドの英雄、オリバー・クロムウェル、キング・ジョージなど物議を醸した英国の政治上の人物、ジャック・ストローのような伝説上のキャラクター、ベルゼブブのような神話に登場する生き物を演じた。