生ごみ減らす「トートバッグ風コンポスト」注目高まる
トートバッグを思わせるスタイリッシュなデザインが印象的な「LFCコンポスト」。サステナブルなライフスタイルに関心の高いミレニアル世代を中心に、じわじわと売り上げを伸ばしているという。2020年12月にはフランスでも発売、21年6月からは川崎市との連携にも乗り出すなど、注目度が高まっている。
20年12月にTBS系『食が変われば地球が変わる』、21年5月にTBS系『あさチャン!』で取り上げられ、そのたびに大きな反響を呼び注文が殺到。長引くコロナ禍で生まれた「おうち時間」で、自炊する人が増えたのは周知のとおり。生ごみに頭を悩ませる人が増えていたところに、テレビやSNS(交流サイト)で見かけたおしゃれな「LFCコンポスト」が刺さったということだろう。自宅のベランダなどに置いて、毎日の生ごみをたい肥に変えることができる。
開発販売しているのは、19年に起業したスタートアップのローカルフードサイクリング(福岡市)。20年1月に販売を始め、これまでにのべ2万人が手に取っている。その開発を手がけた代表のたいら由以子氏は、実は知る人ぞ知るコンポストの達人だ。
そもそもは、父親のがん闘病を機に、無農薬食材の調達に苦労したことがきっかけだった。健康の源、食環境に欠かせない土壌改善に役立つコンポストの普及活動を、母親と二人三脚で始めたのは今から24年以上も前のこと。以来、多いときは年間500本以上、国内外でコンポスト普及の講演に飛び回り、日本やアジア各国で200人以上の後進を育ててきた。
NPO法人循環生活研究所の理事として多忙な日々を送っていたたいら氏が、起業を決めたのは行き詰まりを感じていたからだという。「多くの方から『すごく良いことをしているね』とほめていただきますが、全体を見ると90%の人は生ごみを地方自治体に回収してもらい、自治体が焼却処分している現状がある。税金で賄われてきた生ごみ処理に、お金を出してもらうにはどうすべきかを考え直すタイミングだった」(たいら氏)
そこで会社を興し、考案したのがLFCコンポストだ。商品ラインアップは基本的に2種類。メイン商品「LFCコンポストセット」は、初回セットに繰り返し使えて虫などの侵入が防げるファスナー付き専用バッグと、プランターとして使える内袋、生ごみを速やかにたい肥化する特別配合の基材が付く。1日約300グラムの生ごみを入れられ、1.5カ月~2カ月は使えるという。初回セットを単品で買えるほか、基材のみを1~3カ月間隔で配送期間を選べる定期便なら割引購入できる。
「LFCガーデニングセット」は、コンポスト初心者用の商品。前述のセットに加え、ガーデニング用の土、季節の種が付き、自宅でできたたい肥でガーデニングを楽しめるという「体験」が組み込まれているのがポイントだろう。
「生ごみが集中するのは都市部です。都市生活者の利用を意識し、ベランダに置いてもおしゃれに見えるようデザインや大きさにこだわりました。虫やニオイなどのトラブルを解消できるファスナーを取り付けるなど、機能性も充実させました。独自配合の基材は20年以上のノウハウを集結させたもの。素材は環境負荷が低く、土に返しても負担にならない、地域の有機性廃棄物などを選んでいます。専用バッグなどに使われるリサイクル素材も、米国製では米国からペットボトルを輸入することと同じなので、国産ペットボトル再生素材を使っています」(たいら氏)
たいら由以子氏は、多いときは年間500本以上、国内外でコンポスト普及の講演に飛び回ってきた
ユーザーの8~9割が20代から40代の都市生活者
こうした環境意識の高さや使い勝手の良さに加え、きめ細やかなフォローアップもユーザーを引きつけている理由だろう。利用者の疑問にはAI(人工知能)によるチャットボットではなく、サポーターと呼ばれるスタッフが答える専用LINEアカウントを開設。利用者からの声は随時開発に生かし、販売から1年ほどの間に20カ所以上をアップデートした。
また、できたたい肥の受け皿も用意。「たい肥回収キャンペーン」と銘打って、イベント的に、たい肥を持ち寄り有機や無農薬で野菜を育てる農家へつなげる仕組みをつくった。新宿や渋谷といった都会では、実際に足を運んでたい肥を回収する会を定期的に開催している。
「これまでは利用者の85%は50代後半以上でしたが、『LFCコンポスト』を販売してからは8~9割が20代から40代の都市生活者になりました。コロナの影響もありますが、これだけ気象がおかしかったりもする。みんな、何かしたいと思っていたところにマッチしたのではないでしょうか。LINEからは『アボカドの種は入れられますか?』『パパイアを入れても大丈夫?』などと、私が普段口にしないような食材に関する問い合わせも多く、おしゃれな都市部の方との食生活の違いを感じます(笑)。サポーターは、これまでNPOで人を育ててきたからこそできる、私たちの強み、差別化の部分。現在、16、17人のスタッフで対応していますが、今後増やしていく予定です」(たいら氏)
この夏は、楽しみながら子供たちに食の循環を体験できる「夏休み自由研究キット『コンポストチャレンジ』」を販売し、すぐさま完売。20年12月から販売が始まったフランス以外の外国からも問い合わせが来るなど、好調をキープしている。
生ごみ処理にかかる費用は8000億~1兆円ともいわれ、自治体にとっては悩ましい問題だ。川崎市が21年6月より始めた、フードサイクルプログラム「eco-wa-ring Kawasaki(エコワリング川崎)」も生ごみを減らす取り組みの1つ。LFCコンポストを使ってできたたい肥は、川崎市内に設置したエコワリングコミュニティガーデンに持ち寄れる。野菜作りを体験することで生ごみを減らすことに市民が積極的に関われる。
「これまで関わらなかった層が、楽しんで取り組めることが大事。資源がないところで、資源を作ることに意味がある。枯渇資源であるリンを自分のベランダで再生し、地域に生かせるなんてめちゃめちゃかっこいいじゃないですか」(たいら氏)
ローカルフードサイクリングでは今後、コンポストの開発と同時に、自分ごととして考えられる範囲、半径2キロメートル以内の栄養循環の仕組みをさらに強化したいと考えている。「地域の問題を都会で解決できれば、地方でも必ず解決できる。だから都市にこだわる。私たちは30年に生ごみ資源化100%を目指しています。その3年くらい前、27年からはカウントダウンして、ゼロを達成したいですね」(たいら氏)
目標達成の30年がくしくもSDGs(持続可能な開発目標)と重なるところが興味深いが、SDGsが語られるずっと以前から「楽しい循環生活」「パブリックヘルス」という理念を掲げて走ってきた。時代がようやく追いつき始めた今、ローカルフードサイクリングのサステナブルな都市生活実現へのチャレンジは、さらなる共感を集めることになるだろう。
(ライター 橘川有子、写真提供 ローカルフードサイクリング)
[日経クロストレンド 2021年9月13日の記事を再構成]
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