
米国ではワクチンを接種していない人の間で、抗寄生虫薬「イベルメクチン」の需要が高まっている。デルタ株が急速に拡大する中、ワクチンに懐疑的な人々が代替薬を求めて、一部の医師や支持者が奇跡の治療薬として盛んに宣伝しているイベルメクチンにたどり着いたのだ。
米食品医薬品局(FDA)は、人や動物における特定の寄生虫の治療薬としてイベルメクチンを承認しているが、新型コロナに対する使用は許可していない(訳注:日本国内でも新型コロナ治療薬としては未承認)。
フロリダ州、ミシシッピ州、テキサス州を含む複数の州の中毒管理センターは、イベルメクチンの誤用や過剰摂取に関連する電話や症例が最近になって急増したと報告している。また、米疾病対策センター(CDC)の報告によると、イベルメクチンの処方数は2021年8月13日までの1週間で8万8000件を超え、パンデミック(世界的大流行)前の水準である1週間あたり3600件から24倍に増加した。つまり、FDAの見解にもかかわらず、新型コロナのためにイベルメクチンを処方する医師がいたということだ。
8月、イベルメクチンは米国の一部の農場用品店でも飛ぶように売れた。フロリダ州ジャクソンビルにあるフランク・ウォールメイヤー氏の店では、イベルメクチンの売り上げは3倍近くに達し、この薬に関する問い合わせの電話が毎日少なくとも十数回は鳴っているという。その多くは、ウシやウマの腸内にいる寄生虫を駆除したいというものではなく、自分自身や大切な人が新型コロナウイルス感染症を予防または治療するためだ。
「(新型コロナの)患者の管理が非常に複雑になっています。患者の数も、誤った情報も多すぎるためです」。米南フロリダ大学モルサニ医科大学の疫学者で、タンパ総合病院にも所属するジョン・シノット氏はそう語る。
また、動物と人間では薬の調合や用量が異なる。人間での臨床試験を経ていない不活性成分を含み、濃度が高い動物用のイベルメクチンの摂取は害になる可能性があることをFDAは警告している。
FDAは8月21日にこうツイートした。「あなたはウマではありません。ウシでもありません。本気で言っています。やめてください」
人間用のイベルメクチンは、日本では腸管糞(ふん)線虫症や疥癬(かいせん、ヒゼンダニの寄生によって起こる皮膚炎)の治療薬として承認されている。この目的での使用は一般的に安全とされているものの、頭痛、吐き気、下痢、皮膚の発疹、血圧の上昇などの副作用が起こりうる。また、大量に服用すると痙攣(けいれん)を起こし、入院が必要になることもある。